おいしさと安らぎを届けたい 山形大2年 氏家由希子

 


 


 熊本県産の真っ赤なトマト、佐賀県産の黄色いいよかん。店頭に並ぶ鮮やかな食材の脇には、手作りのプレートで「有機栽培」「無農薬」など栽培法の説明書きが付く。仙台市宮城野区宮城野の「エコロジーショップエナジー」では県内外から取り寄せた有機野菜や果物を中心に、日用品など約1000品目を扱っている。「お客さんの勧めで入荷を決めた商品もあります」とオーナーの成瀬順之さん(44)は話す。


 有機野菜との接点は29歳の時。原因不明の腹痛に襲われた。病院が嫌いで、自力で何とかしようと手当たり次第に本を読んだ。ある一冊の本が野菜主体の食生活への切り替えを勧めていた。内容に沿って生活を改善すると症状は治まった。


 嬉しさのあまり、自分で作物を育てて食べることを思い立った。近所の土地を借り、根菜や葉物野菜など約50種を自然栽培した。育てながら有機野菜に関する知識を深め、魅力を広めたいと思った。2007年5月、作り手から売り手になり自分の店を構えた。


 当初はうまくいかず、開店してから数年は苦しい日々が続いた。客は来ず、売れ残る野菜。店の裏で泣くこともあった。低空飛行の経営が続く中、企業による食品偽装や原発事故による放射能汚染など、食の安全性を脅かす事件が相次いだ。人々の食に対する関心の高まりもあって、経営は徐々に上向いた。


「人々の不安を取り除き、おいしさも一緒に届けたい」。成瀬さんの願いは、店を訪れる客の口コミで広がっていった。安全な食物を提供する生産者と、安心できる食を求める消費者とをつなぐことで、店は育ってきた。今では週に何度も訪れ、かごいっぱいに購入する客もいる。


 今後の目標は食堂を併設した新しい店を持つことだ。今まで通りの商品を販売しつつ、ランチや持ち帰りの弁当を提供したい。「お客さんの笑顔が、自分のエネルギーだから」。安全でおいしい食の先にある笑顔が見たくて、今日も成瀬さんは店頭に立つ。


【レジで応対する成瀬さん。常連客はこの日も多くの食品を購入した。】



--------

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。