作りたいものが作れる場 東北学院大3年 大野加南恵

自分がデザインしたものを自分の手で形にできる、まるで大人の図工室。仙台市若林区六丁の目西町にあるレンタルスタジオ「analog(アナログ)」はインク30色、紙80種以上に、印刷と製本の機械が揃う。製本加工会社の「菊信紙工所」が1月工場の一角に構えた。好みの紙を切って綴じ、ノートをこしらえたり、板に新婚2人の絵を印刷し、世界に一つだけのウエディングボードを手作りしたり…。印刷・製本・加工できる素材は紙に留まらず、プラスチックや布にまで幅広い。


 


 営業部長でanalog代表の菊地充洋さん(36)は「斜陽化する製本業の現状を打開したい」と意気込む。曽祖父が1918年に興した会社は長年、印刷会社が受注し刷った原稿を断裁し、綴じ、本の形にする工程を担ってきた。しかし、電子書籍などの普及により、紙の需要は減少。東日本大震災では、製本の機械まで壊れ、倒産の危機に陥った。


 


 「このままではいけない」と社長である父と充洋さんら兄弟が生き残りの道を模索していた時、充洋さんがデザイナーである友人から受けた相談に、光明を見出した。「左右どちらから開くかで内容が変わる『トリック本』は作れない?」。試行錯誤の末、なんとか形にすると、ツイッターなどで話題になり、「私も作りたい」との反響が相次いだ。情報メディアとしての紙の需要は減っても、製本技術の需要はある。これまで規格外として取り合わなかった個人の一点物を、作りたいという人の思いを形にする、場を提供しようと、analogを開いた。


 


analogは2時間3600円から、1時間ごとに料金が加算される時間制。最初に製本機の使い方の講習を受ければ、材料と機械を自由に使える(材料によっては別料金)。手軽さが受け、これまで関わりの薄かった飲食店経営者から「食器に店独自の模様を入れたい」と相談も来るようになった。今後は、利用者の作品をインターネットなどで販売するサポートもしていく予定だ。「今まで接点のなかった人たちが集まれば、新たな発想に出会えるはず。人の輪は、地域を元気にする」と、充洋さんは未来を見据えた。製本屋は1世紀近い歩みで培ってきた「技術」という土台に、ページの続きを見つけた。



【自慢の創作空間で試し刷りをする充洋さん。analogで製本業の未来をデザインする。】


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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