　はち切れそうな赤いパプリカ、土のついたジャガイモ、青々としたセリ。新鮮な野菜だけが放つ色彩が店頭で競演する。仙台市宮城野区宮城野の「エコロジーショップ・エナジー」。有機野菜をはじめ、食に関する書籍、洗剤などの日用品が1000種類以上並ぶ。レジ横には、しぼんだ野菜も置かれている。「ご自由にどうぞ」というダンボール書き。「捨てるのは嫌だからさ」とオーナーの成瀬順之さん（44）は言う。野菜をわが子のように大切に思っている。

　有機野菜との出会いは29歳の時だった。原因不明の腸の痛み、身体が悲鳴を上げた。病院が嫌いで独自に治療法を調べ、1冊の本に行きついた。乱れた食生活の改善と有機野菜主体の食事を勧める内容に、目を見開かされた思いがした。本に従って生活を改めると、症状は劇的に改善し、性格も穏やかになっていた。有機野菜の奥深さを改めて実感した。

　心身ともに健康を手にしたことで、人生の新たな目標を得た。食の大切さを多くの人に知ってほしい一心で7年後の2007年5月、自分の店を開いた。「食は身体の健康だけではなく、心の豊かさにもつながる。自分の気付きを共有したかったんです」。信念を胸に日々店頭に立ち、医食同源の思想を客に優しく説き続けた。

　「安心できる野菜がここにはある。ここで買えないなら、食べないほうがまだいい」。常連客の主婦は、中学生の娘と野菜を選びながら、自身の食へのこだわりを語る。3年前から有機野菜を食べ始めたところ、悩まされていた娘の花粉症が改善した。今では娘も有機野菜のファンだ。食材はもちろん、調味料も原材料が有機野菜のものを選ぶまで意識が変わった。

　客の心身と暮らしぶりが変わっていく姿を、成瀬さんは素直に喜ぶ。特に次代を担う若者には今の食生活を振り返って、日々の食の大切さをもっと自覚してもらいたいと願う。次なる一歩として夢見るのは、食堂を併設した新しい店を持つことだ。今まで通り商品を販売しつつ、ランチや持ち帰りの弁当も提供する。食材だけでなく、その場ですぐに食べられる料理を提供することで客の層を広げたい。より多くの人の食の安全に関わろうと情熱を燃やす。

　「だって、食べ物で人は変われるんです」。市井の食の伝道者は、店頭で今日も、静かに道を説く。

【商品の魅力を常連客に説明する成瀬さん】

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