ミチ美容室(仙台市青葉区)「地域に開く 美容室」宮城学院女子大学 4年 及川裕未

「今日はこれからどこかにお出かけするの?」。店主の日下あきこさん(50)は、鏡に映るお客さんに、優しくほほ笑む。仙台市青葉区子平町にある「ミチ美容室」は、母の代から店を構えて54年。電話が鳴り、予約を受けると、間もなくして常連客がやってくる。店では、ヘアカットやパーマ、白髪染めのほか、着物の着付けもおこなう。こじんまりとした店には、馴染みの客がお茶を片手にくつろぐ、あたたかな雰囲気がある。

美容師として働く母の姿を見て、この地域で育った日下さん。19歳の頃には、母と一緒に店に立つようになった。結婚し、子どもが生まれた頃、あきこさんの仕事の傍らでは、常連客が、子のオムツを替え、あやしてくれることもあったという。「子どもは大きくなったけれど、お客さんは我が子のように今でも気にかけてくれる」。

穏やかな日常は、東日本大震災で一変した。激しい揺れで、ライフラインは寸断され、店は営業停止を余儀なくされた。こんな時、美容師は何ができるのか―。「髪だけでも洗ってほしい」。住民の声を聞き、震災の10日後には、洗髪を始めた。水道と電気が復旧後、電気ポットで湯を沸かした。張り紙を見てやって来たという初めての客もいた。店の再開後には、白髪染めに訪れる客が多くいた。ふだん通りの生活ができないと、日常はおろそかになる。髪を整えることは、心を整えることでもあったのだった。

時に涙を流して、被災時の苦労話をする客もいた。「話を聞くのも私の仕事。少しでも気持ちが楽になってくれれば」。特別なことは何も言えず、日下さんは、ただ耳を傾けた。

震災から約7年6か月。町には、いつもの日常がある。髪を切りに来るわけでもなく、世間話をしにやってくる客がいる。近くに住む大学生から相談を受けることもある。来店が難しい高齢者のために、道具一式を持ち、家へ出向くこともある。そんな何気ない日常を尊く思う。

後ろ向きな状況でも、ふだんの日常と変わらず明るくありたい。ただ話に耳を傾け、話を聞く。地域に根付いた場所だからこその安心感がここにはある。創業当初から変わらぬ明るい接客で、今日も店に立つ。

河北新報社 記者と駆けるインターン

2012年夏にスタートした、大学生向けの記者体験プログラム。 東日本大震災の被災地で、人に会って話を聞き、大事なポイントを見つけ、限られた字数で記事にする―。 そうした体験は、ジャーナリスト志望者のみならず、どんな職種職業にもつながる「生きる力」を養います。 このブログでは、学生の活動成果である記事と、活動中の日々の様子などを随時発信していきます。 募集告知もこちらで行います。

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