福祉介護施設 ティー・シー・エム ともに歩む A班 上智大2年 向島櫻

「お久しぶり~!」。彼女の明るい声に、利用者たちの顔がたちまちほころぶ。部屋いっぱいに温かい空気が流れる。職員の表情も、取材に応えた先ほどの緊張感とは打って変わり、ふんわり優しい。


 仙台市若林区大和町にあるティー・シー・エムは「すべてのいのちを大切に…」をモットーに掲げ、有料老人ホームの運営や、外国人の介護就労支援などを手掛ける。利用者、職員の双方から「みんなのお母さん」と慕われる社長の金田憲子さん(65)。「お世話する職員もまた、利用者さんから日々たくさんの影響を受けているんですよ」


 東日本大震災時、津波の猛威は施設のある大和町まで及ばなかったが、利用者の生活は大きく揺らいだ。デイサービスに来ていたおかげで一命を取り留めた人がいた。救助のヘリコプターの音に「B29だ!」とパニックになった人がいた。


 職員は懸命に働いた。利用者も自宅で割れなかった食器などを持ち寄った。ホーム全体で力を合わせ、元通りに近い生活を送れるまでになった。


 そんな頃、宮城県沿岸部の南三陸町までみんなで遠足に出掛けた。衛生上の理由から、ホームでは普段提供できない刺身など新鮮な魚介類に誰もが喜んだが、海鮮丼や土産品はどれもなかなかの値段だ。戸惑う職員を横目に、利用者たちはここぞとばかりにお金を使い始めた。訳を尋ねれば「こんな形でしか復興に協力できないからさ…」と、さも当たり前のような答え。「高いなんて言ってた自分が恥ずかしくなりました」


 「介護って何だろう?」。私はふと思う。一般的には、高齢者や何らかの理由で思うような生活が送れない人をサポートする意味合いが強い。介護側が「してあげる」関係になりがちだ。だが、ティー・シー・エムは違う。根っこにあるのは人間同士のコミュニケーション。


 「介護する人」「介護を受ける人」。そこに明確な区分けなどない。



利用者と手を取り合う金田さん

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。