高進商事 「日常見守る 飾れる防災」 武蔵大3年 漢人薫平

▼防災アイテムを手に取る小田原さん。商品名に「SENDAI」の文字が入っている。


「こんなにでかいの置けないよ」。自信の防災用品に苦言を呈されたことをきっかけに、3年間で1万箱を売り上げる「ザ・セカンド・エイド」を完成させた。

 本棚に収まるサイズの箱には、東日本大震災の経験から厳選した13品を納めた。緊急時の対応マニュアルや、非常食のサツマイモの甘煮、保温性に優れるアルミブランケット…。目を引く白地に赤い商品ロゴが、既存品とは一線を画す「おしゃれ感」を放つ。商品名にはファーストエイド(救急箱)の「次」に活躍してほしいという願いを込めた

 開発したのは「高進商事」(仙台市宮城野区)の社長、小田原宗弘さん(48)だ。普段は工場機械の販売をしている。震災直後、物資不足の不安を抱える被災者に、店を開けた地元の八百屋や精肉店が喜ばれていた。「お世話になっているお客さんも助けられないなんて」。機械商社という本業の枠を超え、未知の防災商品の開発に踏み切った。

 アイテムのひとつ「ウォータータオル」は、「とにかく思いっきり顔を拭きたかった」との声から生み出した。津波から避難した人たちの多くは、傷だらけ、泥まみれ。しかし断水で洗い流せない。滅菌した約150ミリリットルの飲料水と手ぬぐい大のタオルを一緒に真空パック。開封すれば、水が飲め、体を拭くことも出来る。傷の応急手当にも役立つ。2015年9月の「関東・東北豪雨」では、栃木県の現場で実際に活用された。「当時の教訓が生きたのなら良かった」と胸をなで下ろす。

 「でも本当は、役に立ってほしくないんです」と災禍の混乱を振り返り、胸の内を明かす。願うのは、多くの家庭や職場ですぐ手に取れるよう身近に置いてもらうこと。生活の中に溶け込んだまま、箱が開けられずに、時が流れることだ。

 「震災で大きな被害を受けた仙台から出す商品。だからこそ、説得力がある」。防災セットには、震災の教訓と、平穏を望む思いを込められている。

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。