介護事業「ティー・シー・エム」 いのちの現場に生きる 東北大3年 斎田涼裕
「今日の服、似合っているわね」「小林幸子、歌ってよ」。和気あいあいとした雰囲気の中、利用者とスタッフとの会話が弾む。スタッフの一言で、思わず笑みをこぼす利用者たち。ティー・シー・エムは30年以上にわたり、仙台市若林区大和町で介護事業を展開してきた。老人ホームや居宅・訪問介護、デイサービスを通して、地域の高齢者を支えている。
社長の金田憲子さん(65)は「人生の先輩たちに尊厳を持って生きてほしい」と語る。利用者にいきいきと過ごしてもらうため、業界では珍しい活動を行っている。
「最期の時も住み慣れた施設で安らかに」。一般的に介護施設では利用者が重篤になり死期が迫ると、病院や自宅への移動を促す。しかし同社では利用者と家族の心身の負担をできるだけ小さくするため、三つある施設全てで「看取り」ができる。前提となる呼吸器などの医療器具を整え、スタッフは全員、必要な資格を持つ。
この活動の根幹には日々の取り組みがある。掃除・洗濯は毎日行い、利用者の些細な変化も見逃さない。食事の様子や話し方、手の握り具合など常に気を配る。対話にも力を入れていて、赤ちゃん言葉ではなく、あたかも「ご近所さん」のように親しく敬意を持って声を掛ける。「社会の一員」としての感覚を持ち続けてもらうためだ。日常での利用者との関係づくりがあるからこそ、利用者に「最期」まで付き添うことができる。
東日本大震災では、普段の取り組みが生きた。余震が続く中、利用者一人一人の様子の変化に気を配る姿勢は貫いた。その上で、環境が大きく変わる避難所に利用者らを移すことなく、建物に大きな被害があった中、施設で生活を続けてもらった。一人も命を落とすことなく災禍を乗り切った。
「客と職員の関係ではやっていけないのです」。施設長の工藤則博さん(63)は語る。利用者たちを愛し、自分に置き換えて考えることで現在の介護のスタイルが築かれた。「介護とは、その人の一瞬一瞬の幸せを考え続けることなのです」。スタッフ全員の思いは利用者の笑顔となって返ってくる。その笑顔を励みに、一日一日を共に生きていく。
利用者の話を笑顔で聞く金田さん
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