【B班原稿】梶農園 確かな仕事でバラ輝く
上智大3年 松本日菜子、立命館大3年 横見知佳、東北大2年 村上敦哉
▲バラの状態を見極め丁寧に収穫する岳洋さん
出荷できるバラかどうか、瞬時に見分け、ためらわず茎の根元にはさみを入れる。見頃のバラは選ばない。その手前、つぼみが開き始めた状態がベストだ。お客さんに届くころ、ちょうど花が咲く。
名取市高柳のバラ工房「梶農園」。代表を務める丹野敏晴さん(64)の後継者の岳洋さん(40)が、収穫したばかりのバラを優しく抱え、傷つけないよう慎重に冷蔵室へ運んだ。切り花は鮮度が命。箱に詰める瞬間まで茎は水に浸しておく。「長持ちする」と喜んでもらうため、品質管理には細心の注意を払う。
創業は1980年。宮城県内で最大規模の約1万平方㍍の敷地に、栽培用の温室が16棟並ぶ。人気の白バラ「アバランチェ」など40品目以上を水耕栽培し、年間約100万本を出荷、販売する。
結婚を機に、バラの世界に飛び込んだ岳洋さん。慣れてきた6年目の春、東日本大震災に見舞われた。海岸から3㌔余り離れた農園は津波被害こそ免れたが、地震の大きな揺れで栽培施設が倒壊。水耕栽培で使う地下水のくみ上げも止まり、手塩にかけたバラが3分の1も売り物にならなくなった。
「待ってるぞ」。再起を後押ししてくれたのは取引する卸売業者の励ましだった。「落ち込んでなんかいられない」と前を向き、1カ月余りで出荷を再開した。「当たり前の作業を丁寧に」。震災前から続くスタイルを愚直に貫いた。
2013年、取引量日本一を誇る東京・大田市場の品評会「フラワー・オブ・ザ・イヤー・OTA」で、梶農園のバラは18万点の最高峰に輝いた。選ばれたのは鮮やかなピンク色の「インスピレーション」。傷つきやすく、扱うのが難しい品種だが、震災の年も栽培を継続し出荷量を増やし続けたバラだった。自分流の栽培スタイルが認められた気がした。
震災から約6年5カ月。苦難を乗り越え、岳洋さんは再びフラワー・オブ・ザ・イヤー・OTAの受賞を狙う。2度目の頂点は「確かな仕事の証明になる」。丁寧に、優しく、手間を惜しまず、誠実に。バラを育てる姿勢は決してぶれない。
0コメント