【A班原稿】ティー・シー・エム 「共助」の輪広げる
東北大 3年 斎田 涼裕
立命大 3年 上田 惟嵩
上智大 2年 向島 櫻
「元気? 今日もおしゃれさんね〜」。頬を寄せ合い、ぎゅっと手を握りあう。仙台市若林区大和町で介護福祉施設を運営するティー・シー・エム社長の金田憲子さん(65)が利用者ひとりひとりの名前を呼びながら話しかけた。明るい声に部屋の雰囲気がぱあっと華やぐ。
ありふれた日常の光景かもしれない。だが同社は、2011年の東日本大震災時の教訓を生かし、独自の取り組みを実践している。今年1月から、災害時、全国の事業者を対象に、職員の派遣や物資の支援をし合う「相互協力協定」の締結に乗り出した。
震災で施設に大きな被害がなく、3日後には営業再開に踏み切った。特別養護老人ホームの入居者や、デイサービスの利用者ら約150人の生活を守る使命があった。約80人のスタッフはそれぞれ被災したが、直ちに持ち場に戻った。
余震はその後も続く。先の見えない張りつめた日々に、スタッフたちの疲れも徐々に蓄積していく。金田さんは「気力で頑張れるのは3ヵ月が限界。納得できるケアが難しくなり、もどかしく悔しかった」と振り返る。
長丁場になるほど、介護の専門知識を持つ助っ人が必要だと痛感した。それなら一時的にスタッフの代わりを務めてもらえる。
苦い経験が、協定の構想につながった。締結先は宮城県内外の介護福祉施設や食品業者、建築業者など20法人に上る。締結先同士の協力も可能だ。
一刻を争う災害支援。緊急時は電話一本で要請できる体制を敷く。きめ細かいニーズに応えられるよう、対象に幅広い業種を含めた。関係者が集う研修会を定期的に催し、日頃から顔の見える交流を重ねる。
遠隔地と手を結ぶことで同時被災のリスクを減らせる。幅広い支援には、より多くの企業の協力が必要だ。年内に100法人まで増やす目標を掲げる。「いざという時、頼れるネットワークに共鳴する企業は多いはず」と金田さん。
ありふれた光景の尊さ。利用者みんなの日常を守る責任を果たすために必要な協定。いつまでも笑顔で過ごせるよう、災害に備えた「共助」の輪を広げていく。
利用者に駆け寄る金田さん
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