高進商事 隅に置けない防災セット 東海大2年 中溝愛

 「身近に置いてもらえるようスマートにした」。防災セット「ザ・セカンド・エイド」の魅力を誇らしげに話す。東日本大震災で被災した自身の経験から「本当に欲しかった13アイテム」を1つの箱に収納。2014年に発売し、これまで1万セット以上を売り上げた。

 発案したのは仙台市宮城野区で工場機械部品の販売を行う「高進商事」の社長、小田原宗弘さん(48)だ。父から会社を受け継ぎ、3代目になる。

 一般的な防災用品は大きくて場所を取り、収納の奥にしまわれていることが気になっていた。これではいざというときに役に立たない。インテリアのように生活になじんで、手元に置いておきたくなるような外見を目指した。当然、箱の中身にもこだわる。非常食として入れたさつま芋の甘煮は、宗教に関係なく食べられること、軟らかいので老若男女が食べられ糖分も摂取できること、アレルギーのリスクが低いこと、の3つの理由から選んだ。

 目を引くのは「ウオータータオル」。震災時の断水中に「顔を拭きたい」という被災者の声が多かったことを基に、飲用可能な水とタオルを一緒に真空包装した。

 震災で指定の避難所には行かず、「自宅避難」を選択した人は少なくない。小田原さんもその一人だ。津波の被害は受けなかったが、揺れで家財が散乱した。避難所に身を寄せる不安から、妻と子ども3人で自宅に泊まった。食料を求め歩いても、店はどこも閉まっていた。そんな中、近所の精肉店は店を開け、地域の人たちに喜ばれていた。従業員が30人を超える会社を切り盛りする立場にいながら、自社の力では人を救えない無力感が募った。防災セットは、そんな悔しさを糧に生み出した意地の商品でもある。

 「災害後の物資不足で苦しむ人を、もうこれ以上出したくない」。防災セットのクールな外観には、小田原さんのそんな熱い思いが詰まっている。


「生き延びる選択肢を増やしたい」と力を込める小田原さん

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。