花に託す 東北学院大2年 横山明佳音

「花なんか売っている場合じゃねえだろ」



罵声(ばせい)が飛ぶ。市場に食べ物を求める人だかりからだった。ある花屋に冷たい視線が向けられた。渡部勝也さん(39)は、「儲けのためだけに店を開けたと思われて悲しかった」と震災当時を振り返る。



仙台駅近くで、昔ながらの風情を残しながら活気づく仙台朝市。ワタベ生花は1953年の創業から約60年、朝市の花屋として地域に根付いている。渡部さんはワタベ生花の三代目主人だ。



震災直後、仙台の台所として親しまれてきた朝市には、市場をはみ出し、100mを超す長い行列ができた。



ワタベ生花は、お彼岸前で花の在庫があった。電気が復旧するとすぐに店を再開した。しかし、行列してまで並んでいた人たちが求めていたのは食料。花で腹は満たせない。花を店頭に並べていることに対して、心ない言葉を浴びせる人がいた。



あのとき、皆、生きるために必死だった。渡部さんが、「高齢者が転んでも助ける人がいなかった」と証言するように、当時の朝市は殺気だっていた。順番待ちの列が乱れたと言っては、客同士でいがみ合いも起きた。周りを気遣う余裕などない、ぎすぎすとした雰囲気が朝市を覆っていた。



大震災から一週間たったころ、震災で犠牲になった方へ花を手向けようと、客足がわずかながらも戻ってきた。「開いている花屋さんがあってよかった」という安堵(あんど)の声が渡部さんの表情をほころばせた。



渡部さんにとって花は、「愛」だという。渡部さんの気持ちのこもった花は、朝市に訪れるお客さんを笑顔にさせてくれる。「花を見ることでリラックスする効果があるんです。大学の研究で証明されているんですよ」と渡部さんが教えてくれた。大切な人に心をこめて花を渡すことは、渡し手の気持ちとともに癒やしも与えられるのだ。







震災から約一年半、町は徐々に復興に向かっているが、心の復興は今も課題となっている。未来に希望がもてない、今の生活が辛い、そう思っている人は少なくない。そんな時だからこそ、大切な人に花を贈ってみてはどうだろう。花の持つ癒やしを与える力、そこに相手への気持ちが加われば、自分の気持ちをより伝えられるはずだ。
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河北新報社 記者と駆けるインターン

2012年夏にスタートした、大学生向けの記者体験プログラム。 東日本大震災の被災地で、人に会って話を聞き、大事なポイントを見つけ、限られた字数で記事にする―。 そうした体験は、ジャーナリスト志望者のみならず、どんな職種職業にもつながる「生きる力」を養います。 このブログでは、学生の活動成果である記事と、活動中の日々の様子などを随時発信していきます。 募集告知もこちらで行います。

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