夕刊未掲載④ 記憶の遺産

早坂美里(群馬県立女子大3年)

藤江高寛(福島大2年)

佐藤優薫(東北学院大2年)





 「まちの復興過程を記録する。それは後世の財産になる」



 ネットラジオ番組「リアルふっこうボイス」を運営する豊嶋純一さん(29)は穏やかな口調で言う。





【写説】番組について意見を交わす豊嶋さん(右)と制作メンバーの田川浩司さん=8月17日午後、仙台市青葉区のせんだいメディアテーク





 ふっこうボイスはまちづくりを学ぶ東北大学の学生を中心に組織された団体で、ライブ動画配信サービスUSTREAM(ユーストリーム)を使い、被災地の住民や復興支援者の声を放送している。



 「研究でまちづくりを学んでいたけれど、震災後のまちを目の前にして何もできなかった」と豊嶋さんはやや苦痛そうな顔で当時を振り返る。未曾有の大震災。前例のない規模でのまちづくりに取り組むこととなった被災地。住民の意見は割れ、一括りにできない状況だった。「行政が住民の意見をどのようにまとめ動いていくのか。その過程を記録することが必要だと感じた」。それが、豊嶋さんらの原点だった。



 マイクを向けるのは、宮城沿岸被災地の住民たち。できる限り、性別や年代、職業が多様になるように心がけている。番組ではこの住民の声と復興計画の進行状況を照らし合わせ、まちづくりを学ぶ学生ならではの視点で議論を戦わせる。

 

 月1回の放送に加え、豊嶋さんたちが力を入れているのは番組や復興計画の保存・記録だ。石巻や気仙沼など宮城沿岸被災地13市町の復興計画を防災、住まい、農漁業などのジャンルに分けて10ページの表にまとめた。まちづくりの計画を専門家以外にも分かるよう配慮した。被災地の声を文字で保存し、発言の真意をどう捉えるかについても番組独自の考察を加え、住民の思いを「通訳」する試みにも挑んでいる。



 記録をどのように活かしたいですか。私たちの問いかけに、「今回のような災害が再び起こったときに、まちを再生する手がかりになってほしい」。先ほどより力強い声が返ってきた。



 自分たちの世代だけではなく、次の世代にも活用してもらえるような音声とその記録を残すことに豊嶋さんたちは重きを置いている。



 震災の記憶は記録されなければ薄れていく。その中で震災を知らない世代へ私たちは何を残すことができるのだろうか。

 

 「震災をなかったことにはしない」。豊嶋さんの目線は復興の先にある。



【メモ】リアルふっこうボイス

せんだいメディアテークが活動拠点。今後は番組の文字化とともに、オランダ政府の支援を受け英語化される予定。
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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。