復興を贈る花 東北学院大3年 半澤航太

 「花なんて売っているんじゃねえ」



 店の前を通る客が発した言葉に、渡部勝也さん(39)は胸が張り裂けそうになった。東日本大震災から3日後の事だった。「いつもと変わらずに品物を提供したかった」と当時を振り返る。



 渡部さんはワタベ生花店の3代目。1953年の創業以来、仙台朝市で商売を続けている。3月11日、倒壊する被害はなかったものの、激しい揺れが朝市を襲った。翌12日には電気が復旧。14日には約70店舗のうち自店を含む半数が営業を再開した。市内各地で物が不足していく中、朝市には連日食料を求め各地から人が集い、長い行列をつくる。



 我先に食料を求め、自分が生きる事に必死で余裕のなかった状況下。湧き出た苛立ちは店先に並んだ花にぶつけられた。私たちは当時、花をどんな目で見ていたのだろうか。花屋に浴びせられた心ない言葉は、食料に困窮(こんきゅう)する被災地の姿を象徴している。

 

 地震から一週間後、感謝の言葉があった。「花屋さんがあってよかった」。花を見て心を和ませた客からの言葉を、渡部さんは今も思い出し、商いを続けている。



 「花を愛でる気持ちを持って欲しい」震災前から持ち続ける、花に対する強い思いだ。



 「花を愛でる」。それは、花を眺めて心が癒やされること。花を贈ることで、相手に自分の気持ちを伝え、癒やしを与えることができる。花の良さを忘れてしまったあの時、本当に求められていたのは、花を見ることのできる心のゆとりなのだ。



 震災から約1年半。心の平静は取り戻せているだろうか。もし自分の大切な人の心に、未だ癒えない傷が残るのならば、ぜひ花を贈ってみて欲しい。その花が心の復興の種となっていくのだから。







真剣なまなざしで花を生ける渡部勝也さん=仙台朝市8月17日正午ごろ
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河北新報社 記者と駆けるインターン

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