枯れない思い 東北学院大3年 安田麻夕子

 「おばあさんが倒れていても、誰も助けようとしない。それだけみんな殺気立っていたんですけどね・・・」

と、ワタベ生花3代目の主人、渡部勝也さん(39)は言う。仙台朝市の中ほどに位置するワタベ生花。朝市の前身である青空市場時代から店を構える老舗だ。勝也さんは高校を出た後2年間東京で修行を積み、家業を継いだ。震災から3、4日後、電気が復旧してから店を再開した。



 普段は人情味厚い場所なのに、震災直後、仙台朝市からいつもの活気は消えていた。3.11の想像を絶した大地震が人々を混乱させた。仙台中心部で食材を買える数少ない場所だった「仙台の台所」こと仙台朝市は人であふれ返った。行列は朝市を飛び出して長い時には100メートルを超えた。



 食料不足は人々の心を荒廃させた。素通りしていく人々の冷たい視線。視線だけではない。

「花なんか売ってる場合じゃないだろう!」

再開直後、思いもしなかった客からの言葉に、心がしおれそうになった。



 冷静にはなりにくい、特殊な状況下だったには違いない。そうは頭で分かっていても、ショックは大きかった。



 花を買い求める人がようやく現れ始めたのは、震災後一週間ほどたってから。その時、お客さんに言われた「朝市に花屋が入っていてよかった」という言葉に、勝也さんは「救われた」と思い起こす。混乱した状況だったにせよ、自分の商いの存在を否定された後だったゆえに、その福音を耳にしたときの喜びは、我々の想像を上回るものだろう。



 「花を愛でてほしい」。それが勝也さんの心からの願いだ。渡部さんによると千葉大の研究で、花に癒やしの効果があることが立証されたという。花を贈ることは、身近な人に感謝を表す方法でもある。花を見る者に温かい気持ちを与える。

 

 しかし私たちがこのままもう一度同じ状況になったとしたら、また心ない言葉を投げかけてしまうのではないだろうか。だが、私たちはそんな時こそ花を愛でる心を思い出すべきだ。



 「他の店ではなく自分の店で買ってくれるお客さん、そしてお客さんを呼んでくれる周りの店に感謝している」と話す勝也さん。「勝也さんにとって、花とは何ですか」と尋ねると、「愛です。商品を愛さない限り、愛してくれとは言えない」とつぶやいた。その表情には、1000年に一度の震災でも揺るがない、勝也さんの花への深い愛が見て取れた。



 









主人の渡部勝也さん。花へ向けるまなざしには深い愛と、お客さんへの感謝の想いが込められていた。


--------

河北新報社 記者と駆けるインターン

2012年夏にスタートした、大学生向けの記者体験プログラム。 東日本大震災の被災地で、人に会って話を聞き、大事なポイントを見つけ、限られた字数で記事にする―。 そうした体験は、ジャーナリスト志望者のみならず、どんな職種職業にもつながる「生きる力」を養います。 このブログでは、学生の活動成果である記事と、活動中の日々の様子などを随時発信していきます。 募集告知もこちらで行います。

0コメント

  • 1000 / 1000