伝え続けるふたつのこと 東北福祉大3年 黒澤真侑子

「映像ではなく、直接閖上を見てほしい。そして、自分の言葉で感じとってください」

「震災語り部」の活動をしている名取市商工会臨時職員の高野俊伸さん(45)は、訴えかけるように語る。



名取市閖上は東日本大震災で甚大な津波の被害を受けた。一年半が経っても、被害を受けた場所は、家の基礎が残ったまま。そこを一望できる日和山で彼は観光客に写真を用いて語る。震災前の閖上と目の前に広がる光景。「その変化に何か感じてほしい」。という願いから、一つ一つ丁寧に説明をする。



震災前、菓子屋の店主だった。創業明治39年の「相馬屋菓子店」の3代目。看板商品「黒飴(あめ)」は地元閖上の味でもあった。熱いうちに丸めるなどして作り上げなければならないあめは、手の平を真っ赤にさせながら作業する。「まだ、あめを作っていたときのやけどが残っていてね」そう語る彼の顔からは、「黒飴」に対する熱い気持ちが伝わってくる。



 店舗は津波に流された。まだ、営業を再開出来ずにいる。「また黒飴を作って売りたいという気持ちはあるんだけど・・・」と言葉を濁す。「お金もかかるし、再開しても今の閖上にはお客さんがいないから」お店を再開してもうまくやっていけるか不安で踏み切れずにいる。



 それでも、将来は必ず黒飴を作りたいと思っている。それは何年先になるかわからない。100年以上続いてきた黒飴のレシピは、すべて頭の中と身体で覚えている。伝統のあめを伝え続けていきたい気持ちは「震災語り部」をしていても変わらない。



 震災を風化させないため。黒飴の伝統を守るため。どちらも忘れられないようにと奮闘する。観光客には「いつの日か復興した閖上を見に来てください」と伝える。そのときには、自慢の黒飴を販売することを目指している。





〈写真説明〉

閖上を見渡せる日和山の上。

観光客に対して「震災語り部」をする高野俊伸さん(45)名取市でただ一人の語り部として活動している。約2000人に実情を伝えてきた。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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