上を向いて歩こう 東北大学文学部2年 國井弥卯





日の暮れかかった校庭で、映画「ふしぎな石」の撮影に臨む子どもたちとスタッフ。現場には始終笑い声が響いていた=名取市の閖上小









 昨年の東日本大震災で津波が押し寄せ、現在は使われていない宮城県名取市の閖上小。家の基礎だけが残り、草原と化した周囲の住宅地が夕暮れに赤く染まる。一帯の寂しい雰囲気などお構いなしに、校庭では子どもたちが大きな笑い声を上げながら駆け回っていた。行われていたのは、自主制作の短編映画「ふしぎな石」の撮影だ。



 主な出演者は、震災がなければ今もこの学校に通っていたはずの子どもたち。多くが津波で家を失い、中には肉親を失った子もいる。



 映画作りは、子どもたちの傷ついた心をケアする「スカイルーム」の活動の一環だ。地元の心療内科医桑山紀彦さん(49)が中心となり、昨年6月から子どもたちが震災に向き合う時間を用意してきた。



 「ふしぎな石」のストーリーは、子どもたちが閖上地区をめぐって5つの石のかけらを集め、それを一つに重ね合わせると、石から津波で亡くなった人たちの声が聞こえてくるというもの。

 

 一般的には、子どもにつらい体験を思い出させるべきではないとされているが、「スカイルーム」のアプローチは異なる。



 スタッフで心理カウンセラーの宗貞研さん(34)は「大人は感情を表に出せても、子どもたちには難しい。思いをそのまま心に閉じ込めるのではなく、ゆっくりと整理し、解き放てるように促すのが私たちの役目。映画作りもその一環なんです」と語る。

 

 完成した映画は、1年半に及ぶ「スカイルーム」の活動発表の場で上映される。宗貞さんは「多くの人が評価の声を寄せてくれれば、それは子どもたちの何よりの支えになる。是非多くの方に足を運んでほしい」と願う。



 つらい時こそ、空を見上げてほしい—。そんな思いで名付けられた「スカイルーム」。現実を受けとめ、確かな一歩を踏み出した子どもたちは、災後の長い人生を、空を見上げて歩んでいく。
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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。