冒険あそび場と心のケア 東北工業大学 3年 川名健介
「子どもは徹底的に遊ぶことで癒やされるんです」
皆に「おかん」の愛称で親しまれるNPO法人「冒険あそび場」のスタッフ佐野洋子さん(62)は、夢中になって遊ぶ子ども達の姿に目を細めた。9月下旬、仙台市若林区卸町の公園。冒険あそび場が週1回開く「出張あそび場」には、公園に隣接する仮設住宅で暮らす子を含め、小学生の男女3人が集まった。
おかんが用意したのは、大小の木片やノコギリ、釘・・・。すると子どもたちはノコギリで木を切り、釘を打ち、見る見る間にオセロやゴルフのパターを完成させた。早速それを使って競技開始。得点や勝敗を競い合う。楽しげな子ども達の姿に吸い寄せられるように、おかんらスタッフも参戦。大人が「悔しいー」と本気で声を上げると、子どもたちは「しめた!」といった表情で歓声を上げた。
冒険あそび場は2005年、仙台市若林区井土で産声を上げた。「水遊び自由」「火遊びもOK」「服を汚すのもあり」。多くの公園が禁止事項でがんじがらめの実情に異を唱えるように、おかん曰く「犯罪以外は何でもあり」のスタンスで、子どもに思う存分遊べる場を提供してきた。「自分が自由に表現できる場」は、子ども達はもちろん、多くの親からも信頼を得た。しかし、東日本大震災の津波で、井土の拠点は流失。震災後の11年8月にからは、子どもが訪れやすい仮設住宅の近くなどに「出張」する形で、活動を再開した。
ただ、再開したあそび場には、気がかりな変化があった。「震災当初、子どもたちが乱暴になってね」とおかんは振り返る。津波に家を奪われ、思い出の品を流され、中には肉親さえも失った子どももいた。言葉にはしえない悲しみやつらさを小さな胸に押し込んだ子ども達は、震災前は見られなかった暴力や行き過ぎたけんかで苛立ちをあらわにした。
出張の試みは現在、仙台市内4ヶ所にまで広がった。回を重ねるうちに、子ども達は本来の優しさを取り戻した。「お互いを認め合えるようになるなど、随分落ち着きを取り戻してきましたね。あそび場が自分達の居場所の一つになったんでしょう」。おかんは子ども達の回復を喜ぶ。
「『心のケア』なんて、意識してするものじゃないよ」。
子ども達に接するおかんに、過度な力みや気負いはない。震災前と同じリズムで、子どもが精一杯遊べる環境を作り、その中で子どもは自ら試行錯誤を繰り返し、遊びと友だちとの付き合い方を学ぶ─。
「自分で考え、行動することは、自分の中に溜め込んだものを吐き出すきっかけになる。それってつまり、心のケアですよね」
子ども達に負けないぐらいの笑顔が輝いた。
写真説明 お絵かきボードで遊ぶ親子=若林区日辺のニッペリアにある臨時の「冒険あそび場」
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