『食べて、飲んで、楽しんで復興支援』 東北大学2年 大高志織

 「生きてて良かった」



 津波で家を失い、命からがら逃れた学生が、残していったメッセージだ。JR仙台駅前(仙台市青葉区)の居酒屋『復興支援酒場』。直筆のメッセージが書かれた多数の短冊が、店内の壁に所狭しと張られている。被災地への思いや応援、同店に対する励まし、そして、感謝。一枚一枚すべてに、客のそれぞれの気持ちが詰まっている。



 「みなさん、いろんな思いを書き残していきました...」。店長代理の福田一也さん(36)は、この1年を振り返りながら、感慨深げにそう話す。



 『復興支援酒場』はこの9月、暖簾(のれん)を下ろす。諸経費を差し引いた利益全額を、岩手、宮城、福島の被災3県に寄付する目的で、秋田市に本社を置く株式会社ドリームリンクが、震災後半年の昨年9月から1年間限定でオープンさせた。寄付金額は今年1月に開店した銀座店と合わせて約1200万円に上る見込みだ。



 「飲み食いすることが復興支援に繋がる。新しい形の支援だと思ってきました」。そう語る福田さんは、「お客様に楽しんでもらうためには、まず自分たちスタッフが楽しまなければならない」と思いながら、この1年間店頭に立ち続けた。笑顔を絶やさず、客が居心地良く感じる空間をつくることに努めた。



 客とスタッフとの距離間が近く、店内では、知らない者同士の会話がよく生まれ、弾んだ。しかし一方で、批判もあった。「偽善な営業方針だ」などと中傷するネットの書き込みもあり、スタッフ一同、心を痛めた時期もあった。「誤解を解くには自分たちの行動で示すしかない」。そうした中傷を気にとめず、より良い店づくりに努め続けた。



 日ごとに増えていった壁のメッセージが、福田さんたちの頑張りを後押しした。



 「たった1年で閉店するのが残念だ」「もっと続けてほしい」「経営のことを考えると今が潮時なのかもしれないけど...」...。閉店を惜しむ声は多い。



 誰もが気楽にできる「飲食」という支援の形。この1年、約2万人が来店した。復興酒場は、多くの人の支援の気持ちを受け止め、被災地につないできた。彼らがつないだ”思い”のバトンは銀座店へ、そして被災地へと渡っていく。





(店頭で客を見送る福田さん 2012年9月21日撮影)
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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。