相談者の目線で ─東北大学無料法律相談所の挑戦─

 夏や冬の長期休み期間中を除く毎週土曜日、仙台市青葉区川内の東北大川内南キャンパスで、市民対象の無料法律相談が行われている。応じるのは、法律を学ぶ現役の大学生。身軽な学生の身分を強みに、相談は「時間無制限」が売りだ。悩みにとことん答える。親身な姿勢で、活動は85年もの歴史を刻んできた。





 名前は、活動そのまま「東北大学無料法律相談所(法相)」。昭和3年の発足で、今年で85周年を迎えた。



 メンバーは約100人。法学部学生の4人に1人が所属する大所帯だ。このうち、実際に相談者に向き合う2年生以上が「所員」を名乗ることが許されている。



 相談場所は大学内の空き教室4部屋を使う。プライバシー保護のため、ついたてを置き、複数の相談にも同時に答えられる工夫をしている。



 相談には必ず2人以上の所員で答える。問題解決に向け、より多様な視点でアプローチする必要があるほか、相続や離婚、契約など、より専門的なノウハウを持った所員が回答するための工夫だ。



 相談を希望する市民はあらかじめ電話で予約の上、相談所を訪れる。相談は無料。昨年10月までの1年間の相談実績は58件だった。



 「プロの弁護士の法律相談は長くても30分が限度。その点、法相は時間制限なしです。訪れたお客様が納得いくまでじっくり相談に応じ、解決策を一緒に探していきます」



 代表の3年生田中舘梨奈さん(21)は胸を張る。入学当初から活動に加わって経験を重ね、2012年夏に代表に就いた。









 「学生だからと甘く見られてはいけませんし、『きちんと話を聞いてもらえるの?』と不安がらせてもいけない。まずは信頼していただくことに気を配っています」



 当然身だしなみにも気を遣い、服装はスーツが基本。アクセサリーや香水は禁止している。



 個人情報の扱いも慎重だ。相談者の名前や住所、電話番号は原則聞かない。一方で、相談を受け付ける所員も一切名乗らず、学年さえも明かさないのが決まりだ。



 学生の活動とはいえ、扱うのが人生を左右しかねない法律問題である以上、プロと同等の厳格さで挑んでいる。



 予約の段階で相談者の悩みにしっかり耳を傾け、抱えている課題の全体像を把握する。その上で、相談日前までに自分たちで回答案を用意する。弁護士や大学教授らの専門家に必ず意見を求めるなど、正確さには万全を期す。



「入学した当時は、法律でなんでも解決できると思っていました」。田中舘さんは振り返る。



 しかし、現実に法相で相対する社会の実相は、単純ではなかった。慰謝料を手にして全てを清算したい人、係争中の相手と関係を修復したい人、どうしたいのかさえ分からなくなっている人…。



杓子定規に法律を当てはめるだけでは、世の中は回らないことを知った。



 だからこそ、時間無制限で相談に答えられる持ち味をいかして、まずは相談者の言葉にじっくり耳を傾けることに心を砕く。相談者の目線で、一緒に解決の道を模索するひたむきさこそが、市民の信頼を築くことになると信じる。



「相談された問題の重さや根深さに戸惑ったりたじろいだりすることも、正直あります。でも、同じ志を持った仲間がいれば大丈夫。そうして85年の伝統があるのです」



「困っているお客様を助けたい」との若き法曹人たちの信念は、時代を超えて受け継がれていく。



東北大学3年 大沼 遼  

慶應義塾大学卒 石川 奈津美

東北学院大学卒 開沼 達也

山形大学2年 高橋 萌絵



【メモ】平成25年度は4月1日(月)電話受付開始で、13日(土)回答スタート。毎年8月には東北各地の地方都市に出向く「出張法律相談」を実施。去年は秋田県湯沢市で開催された。

予約や問い合わせは022-795-6243。

ホームページは

http://tohoku-lab.secret.jp/index2.html


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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