助手席からのメッセージ —安全の未来見据える自動車学校—

「車の運転は人の命に関わるので、運転免許を手にするからにはまず、車の危険性を深く自覚することが大切なんです。教習生が過ちを犯した時、教官がガツンと強く言うのは、その人のためだからです」



仙台市青葉区花壇にある花壇自動車学校の校長小石川正典さん(55)は、教習の心得をこう話します。







同校の教習生の大半は、仙台市内の学生です。運転の確かな「技術」を授けることはもちろん、卒業後の長いドライバー人生を貫き支える「安全の心」を伝えています。



小石川さん自身にも苦い体験があります。学生時代、教習所に通っていたときのこと。交通量が少ないのをいいことに、スピードを落とさず交差点を一気に右折しようとしました。すると・・・。



「車、そこに止めろ! お前、歩行者がそこにいたらはねていたぞ!」



助手席の教官は鬼の形相で、慢心の危うさや安全確認の重要性などを繰り返し説いたそうです。



それから30数年。車で右折しようとすると今でも、脳裏にはあのときの教官の射るような眼差しが思い浮かぶそうです。



「やはり意識して運転しますね。教官に怒鳴られた経験は、本当にいい薬になっています」。これまで無事故で通してこられたのも、あの時の鬼教官のおかげだと感謝しています。







かつて「鬼教官」は、自動車学校の象徴でした。しかし昨今は、姿を消しつつあるそうです。若者の「車離れ=免許離れ」が進み、その危機感から多くの自動車学校が、教習生を一層客と捉えて、教官の「接客マナー向上」に取り組んでいるからです。



そんなご時世の中、小石川さん率いる花壇自動車学校は鬼教官礼賛でも、脱・鬼教官でもなく、目標はシンプルに「教習生にとってわかりやすい指導」を掲げます。小石川さん自身、多くの教習生たちと接してきた経験から「大切なのは伝え方」と言い切ります。



「一人よがりな言葉や態度では、相手には伝わりません。相手が受け止めやすいように言葉を選び、言い方を工夫する。それができなければ教官としてプロとは言えません」



教官が同乗する技能教習だけでなく、学科教習での伝え方にも力を入れています。教官一人一人に教習で使う資料を自ら作るよう徹底させています。どんな言葉で、どんな図表や写真を添えて講義を進めればいいのか─。教官が試行錯誤を重ねて伝え方を磨いてこそ、教習生の理解が深まると信じています。



東日本大震災以降は、防災の意識を高める指導にも重点を置き、教官の中にはカリキュラムの枠を超えて、自身の震災体験を織り交ぜながら語りかける人もいるそうです。



「卒業生が『こんなオートバイ買いましたよ!』って見せに来たりするんですよ。転居や就職などの節目に、挨拶に来る元教習生も多いですしね。いやー、やっぱり嬉しいですよ」。教官にとっては、巣立った教習生との再会が何よりの喜びだと、小石川さんは目を細めます。



一般に、人が教習所に通う期間は長くて半年。短いと1か月にも満たないでしょう。それでも人生の一時を過ごしたに過ぎない自動車学校に、愛着にも似た思い入れを抱く人が少なくないのはなぜでしょうか─。



「教官一人一人の安全運転を願う姿勢が伝わってのことなら、何よりですね」

と小石川さん。



この春も、教官の言葉を胸に刻んで、多くの教習生が巣立っていきます。



東北学院大3年 氏家麻弥

東北大2年 下澤大祐

東北大1年 武長慧介

東北大1年 馬場翔子


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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