スタミナ最前線

 仙台市青葉区、東北大学川内キャンパスのすぐそばに、東北大生御用達の”伝説のお店”がある。 







 「ラーメンさわき」だ。今年で創業28年の老舗。太白区八木山で開業した1997年に現在の場所へ移し営業を続けている。



 一番の人気メニューはずばり、「スタミナラーメン」。シャキシャキの白菜と、たっぷりニンニクが入っている。湯気に混じってどんぶりから放たれる匂いは強烈で、食べた翌日まで衣服にその匂いがしみ込むほど。



 店を始めて半年ほど経ったころ、ほうれん草を練り込んだ緑色の麺を提供し評判となった。今では男子大学生を中心に、東北大生の間では知る人ぞ知る存在になっている。

 

 毎年春、多くの新入生が先輩に連れられ暖簾をくぐる。「スタミナラーメンの大盛り」を食べるのが一種の慣例になっている、という。

 

 東日本大震災の直後、安否確認の連絡がtwitter上で飛び交う中、東北大学生の間であるつぶやきが話題になっていた。



「あの『さわき』が、営業しているらしい」



 市内全域でライフラインが途絶え、飲食店が休業を迫られる中、同店は震災から2日後に早々と営業を再開していた。「何か食べさせて欲しい」と常連の男子学生の懇願がきっかけだった。



「彼のために店を開けたら、みんなどんどん来ちゃってさ。閉められなくなっちゃったんだよね。でも『温かい、美味しい』って喜んでもらえて、なにより嬉しかった…」。と店主のオヤジさんはあの時の光景を思い浮かべながらそう語る。



 幸いにも同店では水道が使えた。プロパンガスを使用していたため、火を使うこともできた。



「小さい赤ちゃんがいるお母さんが、ミルクを温めるためにお湯をもらいによく来ていたよ。落ち着いてくると、頭だけを洗いにくる人もいた」。オヤジさんは周辺地域の水道が復旧するまで、近所の人に無料で水やお湯を提供した。光熱費はかさみ、店は赤字状態だったという。

 

品不足で野菜の値段が高騰した時期でもあった。見兼ねたオヤジさんは店のメニューの値段を上げるどころか値下げした。「みんな大変なときだったし、その方が、お客さんが払いやすいからね」



「震災当初は気が張っていたんだけど、1ヶ月ほど経ったころ突然辞めたくなったんだ。でも、待ってくれているお客さんがいるから。だから今も続けているよ」。オヤジさんはそうもポツリと言った。



 町はずれの小さなラーメン店は、2年前のあのとき、たくさんの町の人の胃袋だけではなく、心も満たした。



「もうすぐ4月。新入生がたくさん来て混むから忙しくて大変だよ!」照れ隠しなのだろう。愚痴っぽい口調で語りながらも、オヤジさんの表情は終始満面の笑みだった。



(@慶應義塾大学卒 石川奈津美)




 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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