1匹1匹の復興

「動物に餌をやる飼育員ならまだしも、注射持ってきては体中そこかしこ刺すんだから、獣医なんて動物に好かれているわけないですよね」苦笑いを浮かべつつ、そう語るのは仙台市八木山動物公園(以下、八木山動物園)で獣医を務める釜谷大輔さん(41)。とは言え、園内の動物たちが生きていく上では欠かせない存在である獣医。3.11の震災当時、釜谷さんらは動物たちの健康状態の検査や、怪我の治療に奔走した。八木山動物園は宮城県仙台市太白区の八木山にある市営動物園。震災発生から43日後の4月23日に営業を再開した。今では震災前同様、来園者に動物たちの元気な姿を見せている。







震災直後の健康調査では、幸いにも体調を崩した動物はそう多くなかったという。しかし、地震により電気、水道などのインフラが停止。燃料の備蓄も限られており、予断は許されない状況だった。「爬虫類などの寒さに弱い動物は、できるだけ同じ場所に集めて暖房を当ててやることで、何とかなりました。ただ、カバについては温水プールを準備するのに苦労しました」カバは一日の大部分をプールの中で過ごすため、プールの環境整備は重要だ。だが水道が止まったことで、数日間は水を温めることも、入れ替えて掃除することもできなかった。震災直後の混乱の中、人にさえ十分な物資が行き渡ってはいない状況。どうしたものか、と職員一同思案していると、思わぬところから助け舟が。「ちょうど近くで地下鉄建設の工事をしていた方々が、『何か自分たちにできることはないか?』と動物園のことを気にかけてくれて、給水所から20トンほど水をタンクに入れて、運んできてくれることになったんです。助かりました」釜谷さんは、しみじみと語る。

また、震災のストレスから食事が喉を通らなくなり、衰弱していたチンパンジーもいた。「同じ種でも個体間で結構差がありましたが、地震から10日ほどの間は、不安そうな動物が多かったですね。でも、今はもう大半が落ち着いています。チンパンジーも憎たらしいほど元気ですよ」釜谷さんの頬が緩む。



八木山動物園は再開直後の2日間(4/23,24)、無料で開園。両日合わせて、延べ16,000人もの人々が来園した。その中には、年配の常連さんの姿もあった。ゾウなどの様に、比較的寿命の長い動物は、“ファン”がつきやすいという。「ゾウのファンにしても『この子を見に来るの』って個体の特徴を把握している方が意外と多く、ちょっと驚きました。『自分の子供みたいなんだ』なんて声も耳にして。動物たち1匹1匹の違いに目を向けて貰えていると実感できて、営業の励みになりました」

それぞれの動物たちが主役の動物園。その舞台裏を、今日も釜谷さんは支え続ける。



(武長慧介@東北大)


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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