震災から動物の命を守る —八木山動物園の苦悩の日々

檻の中で走り回るチンパンジー。水槽の中で悠々と泳ぐカバ。



仙台市太白区にある八木山動物公園では、生き生きとした動物の姿を見ることができる。仙台駅からバスで25分。小高い山の上にあり、遠くには太平洋が見える。



大人の入場料が400円、年間パスポートは1000円で購入できる。価格も安いことから家族ずれが多く、年間50万人近くの人が動物園に訪れる。



「動物の姿を見ると元気をもらえるんです。週に1回は必ず動物園を訪れる熱烈な動物園ファンもいるんですよ」







同園の園長遠藤源一郎(60)は、園内を案内しながら動物園の魅力を語る。人々に愛され続ける八木山動物園。そんな動物園の舞台裏には、動物の命を必死で守る職員の戦いがあった。



2011年3月11日、園内に突如大きな揺れが襲った。人間が立っているのも困難な状況で、大きな揺れは、3分間近く続いた。



動物たちは、大丈夫だろうか—。



職員らは、すぐさま動物たちのもとへ。状況を理解できず、震え上がる動物もいたようだ。「動物は、声を発することができない。でも、職員の姿を見ると安心する様子が伝わるんです」と遠藤園長。動物と職員の絆を再認識した場面だった。



一部の建物に損傷はあったが、動物たちに怪我はなかった。しかし、地震の影響でライフラインが停止し、動物に与える水の調達や温度調節が困難になった。



貯水タンクが底をつき始めていた。飲み水の確保がやっとの状況。汚れていく水槽の水は、交換できない。また、津波の被害を受けた県内の沿岸部にある工場からの餌の供給ができなくなってしまった。このままでは、動物の生命に関わる。職員らは、見通しがつかないライフラインの復活と物流の再開に頭を抱えていた。



「人が水や食べ物を手に入れるのが困難な状況で、近くのスーパーに動物のための食料を分けてもらうのは引け目を感じました」。当時同園の獣医を務めた鎌谷大輔さん(41)は語る。







「動物は、繊細です。余震が続いたり、餌が変わったりすると体調を崩してしまうんです」。慣れない環境にストレスが溜まり体調を崩し始める動物もいたようだ。緊迫した状況が続いた。



そんな中、全国の動物園から励ましのメッセージが書かれた餌袋が届いた。







「この時は、とても嬉しかった。感謝の気持ちでいっぱいです」と鎌谷さん。



動物を支えているのは、園内の職員だけではない。日本中の動物園職員が支えている。今でも園内にある施設では、餌袋の展示がされている。震災から2年が経つが、感謝の気持ちは忘れない。



長かった冬も終わり、仙台市の天気も春らしくなってきた。



今月末で遠藤園長は、定年退職を迎える。「苦労した日々もあったが、これから先も動物園は、元気を与える場であって欲しい」。八木山動物園を去る遠藤園長の思いは、今後も受け継がれていくに違いない。

(氏家 麻弥@東北学院大)


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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