野菜であんしん届けたい      津田塾大4年 渡邊みなみ

 


 


「いつものおいしいみかん、とっといて〜」。


車道を挟んだ向かいの歩道から年配の女性が呼びかける。


「はいよ」と答えるのは、仙台市若林区の荒町商店街の一角で青果物販売の露店「産直ぽんぽこ」を開く渡辺智之さん(34)。


「炒めて、刻んだ油揚げを加えて、そこにレモンの絞り汁を垂らすとおいしいよ」と、旬のユキナを手に取りながら食べ方も伝える。


8割が常連客だ。


 


葉の朝露が光るユキナ、土がついたままのニンジン。


六畳ほどの店には、ネギなど渡辺さんの自作に加え、近くの青果市場や5軒の提携農家から仕入れた十数種類の野菜や果物が並ぶ。


「大内さんの曲がりネギ」「相原さんの黄人参」など、生産者の名前が手書きされた値札からは、作った人の顔が見えてきそうだ。


「ここのトマト買ってから、子供がトマトをよく食べるようになったのよ」と、常連客の中澤久美子さん(38)は言う。


野菜の甘さや新鮮さが売りだ。


同区荒浜で農業を営む渡辺さん。


大震災の津波で実家を失い、広大な農地が塩害を被った。


震災から約1年後の2012年4月、震災で近所のスーパーが閉店したり、慣れない土地に移り住んだりして、買い物が難しくなった人々のためにぽんぽこを始めた。


 



笑顔で常連客に応える渡辺智之さん(左)=3月12日、仙台市若林区荒町商店街の及川酒店前


渡辺さんは商店街への出店のほかに毎週木曜、若林区内の仮設住宅にも出向く。


荒浜出身の佐藤智恵子さん(77)は「スーパーは遠く、自転車はかごが小さいから2往復しなくちゃいけない時もあるの。だから、とても助かるのよ」としみじみ話す。


佐藤さんをはじめ住民の多くが同郷の高齢者たちで、震災前は農業に従事してきた。


野菜の新鮮さにこだわる人が多い。


 


そうした人々に支持されているぽんぽこ。


一方で、その収益は徐々に落ち始めている。


被災から3年が経過し、仮設住宅から転居する人たちが出始めているからだ。


それでも、渡辺さんは意に介さない様子で、「ここでの需要が落ちるのは良いこと」と話す。


「需要が減るということは、仮設から自立する人が増えることだから」。


渡辺さんは、産直という商売を、生計を立てる手段としてだけでなく、社会的な問題を消化させていくきっかけとも捉えている。


「ホウレン草一把からでも直接届けにいきたい」。


渡辺さんは、将来的に訪問販売や御用伺いもしたいと語る。


販売者と消費者とのつながりを重視し、収益の取れない場所であっても店を開き続ける。


そうして安心感を届け続けている。


「おいしかったと言われると、うれしいよね」と渡辺さん。


常連客の言葉に支えられ、歩みは小さくとも確実に歩を進めている。


 


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。