つながる場、ぽんぽこ 東北大2年 石澤脩

 


「みかん、ひとつ取っておいてくださいね、今、財布持ってないのよ」


散歩中の常連客の言葉にハンチング帽の店主、渡辺智之さん(34)は、顔をほころばせながらうなずく。


仙台市若林区の荒町商店街で、酒屋前を借り、毎週水曜と土曜の日中に青果物露店「産直ぽんぽこ」を開いている。


午前9時頃、準備をしている渡辺さんに「久しぶりじゃない、寒いのにご苦労様」と通りすがりのお年寄りが言葉を掛ける。


 


「ある時、何も言わずに買おうとした子どもがいてね。買い物をするとき、会話がないのはつまらないよね。人と人とがつながる場でありたい」と渡辺さん。


 



曲がりネギを持ち笑顔の渡辺智之さん


 


 


六畳ほどの簡易テントの露店。


青果かごの上には、渡辺さんの出身地、荒浜地区周辺の提携農家がその日の朝に収穫した野菜や、果物類。


値札には、「大内さんの曲がりネギ」など生産者の名前が手書きされ、おこわやおにぎりなど農家の味も並ぶ。


 


「震災の影響で買い物に不便を感じている人たちに、地元の新鮮な野菜類を届けたい」


自身も津波で被災し、実家の全ての農地を傷つけられた渡辺さん。


毎週木曜には仮設住宅で店を開く。


荒浜出身の佐藤智恵子さん(77)は「スーパーは遠く、自転車はかごが小さいから2往復しなくちゃいけない時もあるの。だから、とても助かるのよ」とありがたそうに話す。


 


今年2月、仙台は記録的な大雪に見舞われた。


外出さえ難しい中でも、渡辺さんは店を開いた。


多くの客が「野菜が売り切れれば、早く帰れるでしょう」と身を案じて来店した。


 


寡黙ながら熱心に販売に取り組む姿が認められ、請われる形で荒町商店街の青年部会に入った。


商店街の行事に積極的に参加している。


「『ホウレン草一把からでも直接届けに行きます』って、気持ちでやっています」


取れたてだと一目で分かる土がついたままの野菜類のそばに立ち、訥々と話す。


 


ぽんぽこにあるのは、渡辺さんを含め地元農家が精魂込めて育てた野菜類と、売り手と買い手の顔の見える温かい関係性。


「小さいお店だからこそ、地域に根ざしていける強みがある。お年寄りへの御用聞きなんていうのもいいかもしれないなあ...」


露店を始めてから2年、「地域密着」の思いが、カタチになりつつある。


 


--------

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。