人生締めくくる一枚を  明治大3年 根本純

 


仙台市宮城野区東仙台にある佐々木写真館では、2011年秋から70歳以上のお年寄りを対象に肖像写真の無料撮影を始めた。


代表の佐々木公則さん(64)は、「東日本大震災をきっかけに肖像写真の意味を再確認した」と話す。


 


 


店内には、穏やかな笑みを浮かべるお年寄りのポートレートが並ぶ。


古希や退職祝などの節目に撮影する場合が多いが、ゆくゆくは遺影写真として使うことを考える人も少なくない。


 


 


取り組みを広めようと、近隣の町内会の集まりに出向いては無料撮影券を配った。


「気軽に遊びにおいで」と呼びかけながらも、元気な姿を写真に残すことの大切さを訴えた。


次第に撮影に来る人は増えていった。


「大病を患い、人生の締めくくりを考えた」「生きた証を残したい」…。


訪れた人が抱える思いは様々だ。


 


 


震災発生数日後から、佐々木さんは津波をかぶった写真の修復依頼に応え続けた。


40枚にも及ぶ写真をパソコンに取り込み、傷や汚れを一つ一つ直していく。


「無我夢中だった」と当時を振り返る。


 そんな折、津波で全てを失った人の悲しみにふれた。


「葬式をあげたいが遺影がなく、故人を送り出せない」。


一人の写真家として、深く胸に突き刺さる言葉だった。


 


 


自身が18歳の時に父を失い、遺影の準備に苦労したことを思い出した。


戦後すぐに写真館を興し、撮影のプロだった父でさえ、自分の写真を多くは残していなかった。


「人々の生き生きとした姿を1枚でも多く撮る」。


それが自分の役目だと強く心に決めた。


 


 


「肖像写真を撮ることは、自分が亡くなったあとの家族への心遣いだよね」と佐々木さん。


1枚の写真の持つ重みをかみしめるようにつぶやいた。


 


 


スタジオでは、撮る側も撮られる側も自然体であることを大切にする。


「いい写真ば撮ろうねぇ」。佐々木さんがカメラ越しに微笑みかけると、被写体のお年寄りの表情も柔らかくなる。


出来上がった写真を渡し「ありがとう」と言われるたび、背中を押される思いがした。


 


 



【「その人らしい表情を写真に残したい」と佐々木さん。28歳の頃から30年以上、写真館を守り続ける=仙台市宮城野区東仙台】


 


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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