「できない」を「できる」に変える車椅子 京都造形大 旭あや香
病気で一人では立つこともできない17歳の少年がいた。車椅子に乗せてもらい、ペダルに足をかけてもらう。「こげるはずがない」。誰もが思っている中、車椅子は動いた。両親は感嘆の声を上げた。奇跡のような出来事を現実にしたのは、「足こぎ」の車椅子だった。
夢のような光景に、仙台市青葉区にある足こぎ車椅子専門会社「TESS(テス)」の社長鈴木堅之さん(41)は、小さくガッツポーズした。東北大で試験段階だった足こぎに可能性を感じ、2008年に同社を設立。製造は千葉市にある車椅子会社に頼み込んだ。完成品を「プロファンド」と名付け、8人の仲間と普及に努めてきた。少年は、鈴木さんに「足こぎ車いすはいける」と確信させた最初期の患者だった。
プロファンドは、人が立っている状態で体を前方に傾けると自然に足が前にでる反射の理論に基づき、わずかな筋力でも動く仕組みになっている。脳卒中や障害などで半身が麻痺した患者らのための車いすだ。自力移動が可能になり、ペダルをこぐことでリハビリの効果も得られる。
09年に販売を開始。しかし、「麻痺している足でこげるわけがない」と営業して回った先の介護施設のスタッフ達には受け入れてもらえなかった。「あの少年のように乗ってくれれば、そんな固定観念も打ち破れる」。鈴木さんはそう信じて粘り強くPR活動を続けた。
徐々に効果を認めてくれる患者が増えてきた時、東日本大震災が起こった。地震で社屋は半壊。落胆していた時、電話が相次いだ。「支援をしたい」。足こぎの導入をためらった施設のスタッフ達だった。少なくとも、足こぎの将来性を説く鈴木さんの熱意は伝わったのだろうか。励ましの声に支えられ、事業を継続させることができた。
その後、理解者が増え、いまでは年間約1000台を売り上げるまでになった。すでに累計販売は5000台。鈴木さんは「症状が悪化する前にリハビリをできるように」と、より小型の子供向けモデルの開発にも意を注ぐ。
患者とともに、諦めない。鈴木さんは今日も患者の「できる」を追求する。
【自らプロファンドに乗る鈴木さん。「前進」をやめない】
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