時を紡いで深まる価値 東北学院大2年 徳水璃都
「お客さん、いいもの持ってるね」。店に入るなり、職人にほめられた。私が肩にかけていた、オーダーメードの牛革かばん。「長く使えるように」と、20歳になったとき奮発して買ったものだ。一目見ただけで、良し悪しが分かる目利きの鋭さに、恐れ入った。
職人は、菅井光男さん(85)。「菅井光男カバン店」(仙台市青葉区大町)の4代目として、革一枚からかばんをこしらえ、修理も担う手仕事の世界に、15歳から身を投じてきた。店舗兼作業場には、手掛けたかばんやロール状の革生地がうず高く積まれ、創業以来147年の歴史を物語るようだ。
「一生物のかばんを作る自信があるよ」と菅井さんは胸を張る。使う糸はナイロン製よりも丈夫で高価な麻糸。革にはふのりを塗って毛羽立ちを防ぐ。「少しでも手を抜くと品物に舐められる」と銘記し、出来上がりに満足しなければ一から作り直した。
終戦直前から仕事を始めた。物資が不足し、身につける物のおさがりが当たり前だった時代。ランドセルやトランクの修理依頼が日に10件以上も舞い込んだ。高度経済成長期には、7万円もするランドセルの制作依頼が増え、寝る間もなかった。自身の手掛けたランドセルを、親・子・孫の3世代にわたり背負い続けてくれた人も少なくない。
工業製品があふれ、安くて新しいものを消費者が好む時代になると、職人の出番は少なくなっていった。かばんの修理代を聞いてそのまま帰る人も少なくないという。「若い人には、ちょっと高くても良いものを長く使ってほしいよ。おたくのようにね」。この道70年の職人が、若い世代に託したメッセージと受け取った。
丈夫な物は世代を超えて受け継がれ、新品にはない愛着が宿る。古びたり、傷んだりしても、修理を加えれば、さらに次代へ思いは繋がる。それを支える職人の手業は、まっとうなコストだと言えないだろうか―。かばんを修理するときにはぜひお願いしたい。
【自身の手掛けたかばんを手にする菅井光男さん(85)=仙台市青葉区】
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