背中で語る職人としての生き様 東北芸術工科大2年 佐久間楓



【長谷部漆工 長谷部嘉勝さん(62)】 


 


毛布をめくると黒の光沢のある仙台箪笥が顔を出した。目をこらすと鏡のようにこちら側が映る。「これはもう完成だね」そう呟きながら、箪笥を撫でる。その手は優しい。


仙台箪笥は木工師、金具師、塗り師という三つの職人によって作られている。一人でも欠けると成り立たない。


12代続く、漆塗り家業を営む長谷部嘉勝さん。現在は仙台市青葉区の工房で漆塗りだけではなく、修復も行う。漆塗りとは漆を塗って乾かし、研ぐという工程を幾重に繰り返す技法だ。


仕事で大切にしているのは漆塗りの道具づくり。「道具を整備することは仕事のできにも関わってくる」。手に馴染んでいないと、思うように漆を塗ることができなくなってくるからだ。


漆を伸ばすヘラは木から切り出す。作業によって柔らかい木と硬い木のヘラを使い分ける。漆を塗るはけは継ぎ木しながら使い続けていた。この昔ながらの、自分で道具を作る人は少なくなっている。長谷部さんは全て、素材を取り寄せて一から作る。道具の整備は常に妥協しない。


大学時代から家の仕事を手伝っていた長谷部さん。職人と接するうちに自然と漆職人という仕事に惹かれた。初めは父親の内弟子のもとで修行した。朝から晩まで作業しなければならず、鍼治療に行くほど肩こりに悩まされた。仕事を続けられたのは完成品を手渡した時に「こんなに綺麗になったの」「これ本当に私の箪笥なの。」というお客さんの声に後押しされたからだ。


今でも、叔父にもらった小刀を40年間大事にしている。もう刃は薄くなった。「これだけは捨てられなくてね。」と小刀をじっと見つめて長谷部さんは言う。


自分で作った道具は2人の弟子にも自由に使わせる。壊されることもあるが、咎めることはない。失敗を繰り返し、職人として成長してほしいからだ。背景には弟子にも伝統的な漆塗り職人の仕事を体感して受け継いでいってほしいという思いが隠されている。


「またヘラを割ったのか」壊れた道具を見てにこやかに微笑む。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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