お客さんとの会話、大事に  立命館大2年 亀井文輝

 


「少しそっちさ歩いてみたらどうだべ?」。成人式に着るはかま姿で直立不動だった若者の肩の力みが取れる。「そのまま!おーいいこと」。仙台市宮城野区東仙台の佐々木写真館。代表を務める佐々木公則(きみのり)さん(64)は客の表情が和らいだ一瞬を逃さずシャッターを切る。


             


来店したばかりの客は緊張で顔がこわばっていることが多い。自然体で撮影に臨んでもらうため、佐々木さんは積極的に会話する。親しみを込めて仙台弁を使い、「普段は何してんのっしゃ?」と切り出す。会話が弾めば表情は緩み、シャッターチャンスは訪れる。


 


若いころは自分より年上の客に遠慮していた。ポーズの細かい要求ができず、出来栄えに満足できないことがあった。ある時、「相手の話に関心がなくても、すぐに会話を切ってはいけない」ことに気づいた。会話が長続きし、盛り上がるほど写真の出来は上がる。そう実感して、客との距離を縮めることに傾注した。


 


佐々木さんは「撮った人の7割くらいは顔を覚えているんだよね」と得意げに話す。街の小さな写真館の良さは、地域や人の息遣いが感じられることだと信じている。幼いころにやってきた客が、成人になってからもまた訪れる。「大きくなったねぇ」。幼いころの思い出話に花が咲く。


 


2011年の東日本大震災では、地域の一員として被災者に寄り添った。石巻などの沿岸部から、家屋が津波で流され、がれきの中から掘り起こした写真を持ち込まれれば、「お互い頑張ろう」と小さな声で励ました。家も家族も失った遺族から「遺影にできるものがこれしかないから」と言われれば、「故人の面影を取り戻してあげよう」と無我夢中で修復に向き合った。今となっては、「当時のことをよく思い出せない」と苦笑いする。


 


真心こそが店と客の接着剤。「お客さんが一番。自分は二番」。今日もスタジオには佐々木さんの仙台弁と客の笑い声が響く。


 



【カメラ越しにほほ笑む佐々木さん=仙台市宮城野区東仙台】


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。