伝統に新たな「色」を 立教大3年 鈴木俊平
【自社製品のトートバッグを片手に魅力を語る武田和弘(53)さん】
染料に使う硫黄の匂いが壁に染みこむ工場で、職人が慎重に白生地を濃紺に染め上げる。外では、染め終わった手拭が風に揺れている。
仙台市若林区にある武田染工場。閑静な住宅街にある従業員12人の工場を率いるのは、16代目の武田和弘さん(53)だ。
2011年7月に先代の父が他界。24年間勤めた広告会社を退職し、後を継いだ。
工場は江戸時代中期に創業、300年の歴史を誇る。今も伝統的な技法で前掛けや手ぬぐいなどを専門に製造している。
同年の東日本大震災後、取引先数社が廃業した。武田さんも悩んだが、「工場を支えてきてくれた家族や従業員の顔」が頭に浮かび、工場を続ける覚悟を決めた。
家業とはいえ、染め物業界のことをほとんど知らないまま、社長に就任したのだという。印刷技術の発展による需要低下や後継者不足が原因で、染め物業界が長期衰退傾向にあるとは予想していた。
驚いたのは「閉じた染物業界の体質」だ。
工場では、のぼりやのれんなど、扱っていない種類の染め物の注文も受け付ける。その場合、デザインのみを担当、同業他社に声を掛ける。完成品を武田染工場から客に手渡す仕組みだ。同じ形で、他社から依頼が入ることも。
「染め物業界は横の繋がりが強い。業種内の取引だと、ウチで染めたことを顧客は知らないまま」と武田さんは説明する。
「自ら染め物の魅力を発信しなければ、伝統が廃れてしまう」。
老舗の将来への不安が、武田さんを新機軸へと駆り立てた。
手拭をはじめ「武田染工場」とはっきり表示した自社製品の開発に力を入れる。福祉施設や食品卸会社といった異業種と提携しての手ぬぐいの制作にも取り組む。
この道48年のベテラン、佐藤恒穂(66)さんは「長年、職人が考えていたことを具現化してくれた」と新たな取り組みを歓迎する。
「私が決断しなければ、従業員に迷いがでてしまいますから」。
武田さんは不安を胸の奥に秘め、伝統の継承へ、道を切り開いている。
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