かばんより強い、夫婦の絆 宮城学院女子大1年 加藤里香

仙台市青葉区大町、昔ながらの商店街の一角に、創業147年を迎える「菅井光男カバン店」が見える。


店内に入ると、多種多様なかばんに、150種類もの生地が出迎えてくれた。店の入り口のすぐ前にどん、と座って、かばんの修理や制作に精を出しているのは、4代目の菅井光男さん(85)。その後ろのテーブルでは、妻のフミ子さん(81)が「ガガガガガ」とミシンをかけていた。


光男さんのかばんに対するこだわりは強い。注文を受けて、かばんに合う生地を用意するために東京、浅草まで足を運ぶ。革は、丈夫な日本製の牛革に限る。強度の高い、高価な麻糸で一針一針縫っていく。納得のいく出来でなければ一から作り直すという。自身のかばんを前に、「丈夫さなら、だれにも負けないね」と力強く語った。


丁寧な仕事が信頼につながり、多くの客が足を運んだ。高度経済成長期の1960年代が最も忙しい時期だったという。1つ作るのに2日かかるランドセルの制作依頼が、多い月で15件ほど来た。次男のランドセルを作る暇もなく、「ふたりでランドセルを寝ないでつくったものだねぇ」と、当時を振り返る。


「一人では、やってこれなかったなあ」と光男さん。フミ子さんの存在は大きい。結婚したのは25歳のころ。洋裁を学んだ経験があるフミ子さんは、懸命に職人の仕事を覚えて手伝ってくれた。今では自分より上手いかもなあと、苦笑した。


かつて光男さんは、革のジャンパーをプレゼントしてもらったことがある。すべてフミ子さんの手づくりだ。光男さんは「もう重くて着られないよ」と話すが、今でも宝物のように大切にしている。


「褒めたら、ナメられっから。言わねぇんだ」と、少しうつむいてつぶやくと、フミ子さんは「まぁ、もうとっくの昔からナメてるんだけどね」と応じ、笑い声が店内に響いた。60年続いた夫婦の絆は、店のどのかばんよりも、丈夫に見えた。


 



 


【60年間共に過ごした『菅井光男カバン店』にて。菅井光男さんとフミ子さん】


 


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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