父から子へそして弟子へ 東北大1年 高橋直道

「伝統の技を自分の代で廃れさせたくない」。仙台市青葉区の長谷部嘉勝さん(62)が、仙台箪笥の漆塗りを担う長谷部漆工の代表を継ぐと決意したときの心境だ。


仙台箪笥は木工・金具づくり・漆塗りの三つの手仕事から成り立つ。弟子二人と仕事に勤しむ。


長谷部さんは大学を卒業してすぐ、家業の塗師を継いだ。仕事を始めて40年以上になる。最高の仕上がりを求めて仙台箪笥に漆を塗り重ねてきた。


転機になったのは東日本大震災だ。修理の仕事が相次ぎ、仕事全体の9割に達した。依頼を受けて、弟子とともに自ら沿岸部まで足を運んだ。


津波でボロボロになった箪笥を蘇らせるには通常の修理より1年以上長い1年4ヶ月かかることもあった。


震災翌年の歳末、宮城県亘理町の50代女性のリフォームした家に修理した仙台箪笥を納めた。箪笥のための場所がとってあった。帰り際に、「これからも大切に使います」という言葉を女性からかけられると塗師の仕事の重みについてあらためて感じ、仕事を続ける原動力となった。


漆塗り職人の世界は「とぎ3年・塗り8年」と言われている。先代である父は手作業一筋だった。「親父の域まではまだ達していません」と長谷部さんは控えめに語る。伝統の手仕事を未来につなぐ責任を、長谷部さんは自認する。


長谷部さんの下には若い二人の弟子がいる。


「早く自分を超えて欲しい」と望んでいる。自分の跡は弟子に継がせるつもりだ。


弟子同士のやりとりには口を挟まないよう心がける。「失敗しながら仕事を覚えればいい」と長谷部さん。


弟子二人が粉まみれになって作業している工房にそっと入り、「順調だな」と穏やかに声をかける。足元に散らばっている刷毛やヘラが、ふと目


に入る。弟子たちは道具の手入れが完璧ではない。「まだ伝えきれてない」。そう心の中で思いながら、長谷部さんは道具の手入れを始めた。


 



【師匠について語る弟子二人】


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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