染め物屋に活気をもたらす若手職人 明治大1年 矢崎翼
前掛け10枚分がひと続きになった染め物の生地にタイの型を置き、上からヘラを使って糊を置いていく。染色をする際に絵柄が染まらないようにする行程だ。仙台市若林区にある「武田染工場」の若手職人、浅沼智洋さん(31)は一枚一枚丁寧に仕上げる。
職人歴は5年。以前はアパレルの販売員をしていた。仕事を論理的に教えられた前職とは異なり、職人ならではの「見て覚えろ」という教え方に当初は戸惑った。自分の目を頼りに仕事を覚えるのはつらかったという。いまは苦悩を乗り越え、技を見て学ぶ楽しさを感じている。
常日頃、先輩職人からは「満足したら終わりだ」と言われる。妥協を許さないベテランの姿を見て「糊置きの技術で日本一になりたい」と目標を語る。
工場は江戸時代中期に創業、300年の歴史がある。従業員は12人。今も伝統的な技法で前掛け、手ぬぐい、半纏を製造している。同業者の中には、2011年の東日本大震災で被災し、廃業した社もある。印刷技術の発達による需要低下や後継者不足も、染め物業界の長期衰退傾向を生んでいる。ところが、武田染工場には、浅沼さん以外にも20~30代の若手職人が少なくなく、活気にあふれている。
14年9月に入った新人職人の寺嶋康平さん(26)は、病院で医療機器の管理をしていた。デスクワークに向いていないと感じ、転職を決意。二度の面接を経て、染め物職人になった。デザインの専門学校に通い、色彩検定1級を持つなど色に興味がある。
寺嶋さんの心を突き動かしたのは「職人」という肩書への憧れだった。力の要る作業が多く、「体中にガタがきている」と照れながら話すが、「今の仕事は自分に向いている」と胸を張る。
社長の武田和弘さん(53)は若手職人に対し「厳しい仕事から自分らしさや楽しさを見つけてほしい」と語る。のびのびと働く若手にベテランも「負けてられない」と気を引き締める。若手職人の前向きさは、製品作りにもいい影響を及ぼしている。
【自信作の手ぬぐいを手にする(左から)寺嶋さん、武田さん、浅沼さん】
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