困難を乗り越えて 東北学院大2年 歳桃詩穂里
【自ら試乗し、プロファンドの未来を語る鈴木さん】
「4年間リハビリを続けても、足が動かない」。脳こうそくで左半身が不随になった60代の女性に笑顔はなかった。「もう自分の足が動くことはない」と諦めた。だが1年後、彼女は自力で階段を登れるまでになった。彼女の人生を変えたのは、足こぎ車いす「プロファンド」。リハビリに苦しむ人々に希望を与えている。
仙台市の東北大工学部内に、プロファンドの開発・販売を手掛けるベンチャー企業がある。2008年に設立されたTESS(テス)だ。社長の鈴木堅之(けんじ)さん(41)は、障害を抱え、歩行が困難な人に笑顔をもたらしている。
会社設立の10年ほど前、小学校の教員だった鈴木さんは、テレビの映像にくぎ付けになった。前方にペダルがついた足こぎ車いすの画期的な機能が紹介されていたのだ。「これさえあれば、障害のある子供らを救えるかも」。大きな可能性を感じ、起業を決めた。
商品化は苦労の連続だった。製造を業者に依頼するにも、試作車は90kg。持参して現物を見せるのは難しい。映像のみを頼りに全国を回った。何社、何十社にも断られ、やっと1社が興味を示した。千葉県にある車椅子製造会社。試作車を乗りこなす半身不随患者の姿に心動かされ、わずか2カ月で量産車を仕上げてくれた。
11年の東日本大震災でTESSは社屋半壊の被害を受けた。売り上げは過去最低に沈み、廃業も考えた。励みは購入者からの電話だった。「生きる希望を取り戻した。やめないで」。プロファンドを待つ人の姿を思い浮かべ、経営再建の道を模索した。存在を知ってもらう地道な取り組みこそ近道と、利用してくれそうな高齢者や障碍者が集う場に出向いては「乗ってみませんか?」と声を掛けた。
結果は吉と出た。試乗した人、買った人を核に口コミが広がり、今では年間1000台以上が売れるようになった。累計でも5000台を突破。歩行が難しかった多くの人たちに笑顔をもたらしてきた。
社会の高齢化が進む一方で、医療の進化で半身不随になっても一命を取り留める人は増えている。「プロファンドの活躍は、これからが本番です」。鈴木さんの前進は続く。
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