松島から全国へ つながる酒屋 明治大3年 鈴木良征

 「どんな日本酒が飲みたいの。試飲してみるかい」。


お客さんと家族のように接するのは、宮城県松島町の酒販店、

むとう屋社長の佐々木繁さん(67)。


 日本酒好きも、詳しくない人も来店する。

だからこそ、各日本酒には細かく特徴が記された説明書きを添えた。

「インパクト系」「癒し系」「記憶系」といった専門用語を使わない表記で

客に楽しんで選んでもらうよう心掛ける。


 客には、気持ちよく帰ってもらえるように接客し、

人との出会いを大事にする。

それがこの店のコンセプトだ。


 この思いを最も象徴するのが、「酒かわら版」というチラシだ。

宮城の地酒や肴など、おすすめの品を手書きでまとめ、郵送する。

「『お酒が飲めなくなったけど、かわら版は送ってよ』というお客さんの声が嬉しいよ」と佐々木社長は顔をほころばせる。

18年続くかわら版は、全国で3500人を超える人々をむとう屋と結んでいる。


 2011年に起きた東日本大震災では、松島湾を襲った津波によって、

店舗の一階にあった商品は全て流された。

総額一千万円分の被害であった。

厳しい状況の店を支えたのが、20、30年来の付き合いのある蔵元と、客だった。


同じく被災した宮城の蔵元は、問屋に出荷できる状況ではなかったが、

再オープンを目指すむとう屋に優先して酒を届けてくれた。

全国各地の客から心配や激励の声が届いた。


「この恩義は一生忘れてはいけない」と佐々木さんは涙をにじませる。

震災を通して「むとう屋は自分のものではなく、

全てのお客さん、取引先の物だ」と教えてもらった。


 一方で、震災での苦労は出来るだけ客には伝えないようため、

店内に被災時の写真は一枚もない。

客に心配をさせたくない。

何事もなかったかのように、客を迎える。


 佐々木社長は「これから先も、一つ一つの出会いを大切にするだけ」。

力強く語った。


繋がりを大切に。

この信念が、むとう屋が地元から全国まで多くの人に愛される店となった理由だ。



【客に宮城の地酒を紹介する佐々木さん】


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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