食にあるメッセージ伝えたい 東北学院大3年 鈴木恵



 【看板商品である「おとうふ揚げ」を手にする高橋社長】


 


 しっかりした弾力と豆腐の甘さが口に広がる「おとうふ揚げ」、

さくっとした食感が病みつきになる「さつま揚げ」。

噛んでいくと、魚のうま味がじんわりと広がる。


 1905年に石巻市で創業した高橋徳治商店は、

練り物など水産物の加工製品を製造している。

素材の味を百パーセント引き出したいという思いから、

製品は防腐剤などの合成添加物を使わない。


 3代目社長の高橋英雄さん(64)は

「食べることで、生産者の苦労や製品にかける思いを感じ取ってほしい」と力強く語る。


 その背景には2011年3月に起こった東日本大震災があった。


 震災当時、3つあった工場が津波の被害によって、すべて操業停止に追い込まれた。

大きな喪失感と死すら考えた英雄さんを救ったのは、のべ1500人にも上るボランティア。

青森から鹿児島まで、主な仕入先である生協の職員や商品を愛する組合員、

ボランティア団体が石巻にある本社工場に集まっていた。

工場を埋め尽くしていた泥を必死にかき出し、機械を清掃した。


 同年10月、本社工場が復旧。看板商品の「おとうふ揚げ」の生産を再び始めた。

高橋さんは協力してくれた人たちへの恩義を強く感じた。


 2013年から東松島に新工場を置き、製造拠点としている。

朝6時から3時間以上かけて製品の味を確かめる。

0.01パーセントの塩加減にもこだわり、

使っている魚のうま味がもっとも出るまで調整し続ける。

「お世話になった人が『協力してよかった』と思ってもらえるように、

震災前の味をはるかに超える商品を作っていく」と意気込む。


 おとうふ揚げの現在の製品パッケージは、

郡山市の8歳の女の子が描いた、家族団らんの絵がプリントされている。

下には「3.11は忘れない。福島は忘れない。」と書かれている。

あえて「を」ではなく、「は」としたのは、

震災で亡くなった人や、原発事故で避難生活を強いられている被災者は、

3.11をずっと覚えている、という意味である。


 「震災はまだまだ終わらない」。

英雄さんの思いが、メッセージとともにおとうふ揚げに込められている。


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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