縁を大事に ハッピーな店へ 東北大1年 越田健介

 棚に並ぶ宮城の地酒の試飲を勧める。

客と話しておすすめの銘柄を紹介する。

宮城県松島町で酒販店むとう屋を営む佐々木繁さん(67)は、

縁を大切に来店する客に気さくに声をかける。


 むとう屋と店頭の酒を造る蔵元とは「20年、30年の付き合いが当たり前」という。

長い間柄だからこそ佐々木さんは酒造りの苦労や熱意を知り、客に伝えたかった。


 佐々木さんの発案でリーフレット「酒かわら版」を発行。

現在は娘で店長の佐藤華子さん(38)が、蔵元を取材し、手書きで形にする。

毎号10種類ほどの地酒や肴の魅力を、

杜氏(とうじ)の顔写真や「人柄と同じ味」などの親しみやすい言葉もまじえて伝えている。


 誕生は1997年。

今では愛読者が約3500人にのぼり、蔵元と客、そしてむとう屋のつなぎ役になった。


 佐々木さんが人の支えを強く実感したのは、2011年の東日本大震災。

松島町を襲った津波によって、むとう屋の店舗1階が流された。

1000万円相当の酒が販売できなくなり、取引先とのデータも消えた。


 震災直後、むとう屋は客と蔵元に支えられた。

全国のかわら版ファンから心配や励ましの声が届き、

中には義援金を送る客もいた。

蔵元も店の片付けに駆けつけてくれたり、優先して商品を送ってくれたりした。


 むとう屋の再オープンは、震災発生から3か月後の6月10日、

「む(6)/とう(10)屋の日」。

佐々木さんは当時を振り返り、

「むとう屋はお得意さんあってのもの。

どんなにお世話になっていたか教えられた」と涙をにじませた。


  今年4月、むとう屋は松島産の梅を使用した「松島梅サイダー」の販売を始めた。

来店する大人だけでなく、同伴した子どもとのつながりを生む大人気商品。

店長の佐藤さんは「子どもも大人もみんなで楽しみたい」という思いを込めた。


 「お客さん、得意先、みんなをハッピーにしたい」と佐々木さんは目を細める。

酒や「酒かわら版」、梅サイダーを通して人がつながる明るい店内に、

今日もひっきりなしに客が訪れる。


 



【▲蔵元を取材して「酒かわら版」を書く佐藤店長(右)と、佐々木社長。】


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。