思いに寄り添う額縁職人 宮城教育大2年 鎌田弘恵
色や形の違う200種類の額縁サンプルを目の前に客は頭を悩ませる。額縁を作り続けて40年のベテランは客の意向を聞くと、さっといくつか提案をした。客は納得し、手に取って依頼品と見合わせる。相談しながら心に留まる1つを見つけると客が満足げに頷く。仙台市青葉区栗生の「杜の額縁工房」工場長の小野寺正人さん(59)もようやく笑顔を見せた。
依頼品が持ち込まれるとサイズを測り、額縁と作品の間を埋める厚紙の組み合わせを決めていく。選んだ額縁の材料は切り、組み立てた後、依頼品を収めて完成する。仕上げは手渡したときの嬉しそうな客の笑顔だ。
工房を開いて約4年になる。2011年の東日本大震災の影響で勤めていた額縁を扱う会社をやめることになった。悩んでいる時、会社で指名してくれていた客から「また小野寺さんに額縁を頼みたい」と声が届く。背中を押され、翌年3月に絵画のレンタルを扱う会社の傘下に加わり、杜の額縁工房を開いた。
額縁を作るだけでなく、古くなった作品や大震災の津波で砂がついてしまった作品などの修繕も行う。時には絵画の染み抜きなど専門外の依頼が来ることもある。持ち込まれた客の大切な作品。小野寺さんは表具屋を紹介し、また飾ることが出来るように手助けをしている。
<「今ある縁を大切にしていく」と笑顔の小野寺さん>
額に入れるのは絵や写真ばかりではなく、皿や能面、蛇の抜け殻なども可能だ。立体物を入れる額は量販店で売っていない。それでも「大切なものを飾りたい」という客が小野寺さんを頼ってきた。突然のことだったが、客の希望を叶えるために依頼を受けた。口コミで広がり、今では多くの作品を手掛けている。小野寺さんは「たいていの物は額に収められるよ」と自信ある表情をのぞかせる。
小野寺さんは「手が動かなくなるまで続ける」と意欲を見せる。工房に持ち込まれる依頼品の数々。優しいまなざしの先には人々の思いがある。
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