つながる タラコにのせた思い 東北学院大学4年 伊勢美沙子

店頭の冷蔵庫には、ふっくらとはち切れそうなピンク色の宝石「タラコ」が並び、客の目を引く。仙台市若林区新寺の閑静な住宅街にある「たらこカフェ」。店の奥のアンティーク雑貨やリメークされた家具は、古い洋館のような落ち着いた空間を生み出す。開店したのは東日本大震災の発生から2カ月後の5月。石巻産のタラコを使ったどんぶりやパスタ、サンマの明太子漬け定食などを提供し始めた。


看板メニューが「タラコのケークサレ」。ジャガイモを使った生地と塩辛いタラコが絶妙に混じり合う甘くないパウンドケーキだ。ワインとの相性もいい。「古里石巻のタラコを多くの人に知ってほしい」と、オーナーの高橋好子(58)さんが3年間の試作を重ねて考案した味だ。真ん中にタラコが入った日の丸のような見た目は独創的だ。


デザインを学ぶ専門学校を卒業、30年間ディスプレーデザイナーとして空間をモノと光で表現してきた。結婚式に生花を使わず、手作りのオブジェだけで演出する手法などで評価された。常に新しい表現を生み出し続ける高橋さん。歳を重ねるにつれて、タラコを売ることに苦戦しながらも一途に働く両親の姿に憧れていった。「対立することが多かったけど、私のやる気の源になっていた」と振り返る。実家は、1972年に創業したタラコ販売店「マルイチ高橋商店」(石巻市)。タラコを販売することこそ古里の復興につながるとカフェを開店した。カフェで扱うタラコは全て商店から直送している。


今後は、新メニューの考案やマルイチ商店と共同で海外向けのタラコ料理の開発を計画している。タラコを買いに来る人はマルイチ商店を知る年配客が中心。カフェは近所に勤める女性会社員や若者カップル。カフェで店に来た客がタラコを買い求め、なじみ客がカフェでくつろぐ。繋がっていく商売が理想だ。「石巻のタラコを広めたい」。高橋さんの想いがタラコと人、人と人とをつなげていく。



 


「ケークサレ」をふるまう高橋さん11月19日、仙台市若林区新寺


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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