A班原稿/すしの貴伸 握りに込める出会いへの感謝

東北大3年 堀井良樹

桜美林大3年 安部朋海

明治大2年 成田峻平



〈いらっしゃいませ、今日の出会いを大切にします〉

 店名が入った箸袋に決意の言葉が添えられている。多賀城市にある「遊食処 すしの貴伸」。大将の高橋伸司さん(49)は力を込める。「出会いが人生を変えてくれた」


 店では四季折々の旬のネタが一年中楽しめる。うにをたっぷり使った「うに茶わん蒸し」も人気メニューの一つ。若い女性の一人客から家族連れまで、幅広い層に愛されている。


 魚との出会いは約30年前。進学を志して大崎市古川から仙台に来て住み込みで働き始めた時、お世話になったのが鮮魚店だった。店主に魚の魅力を教わった。「種類は数え切れず、調理法もたくさんある」。魚を大事にさばく姿に命を扱う仕事の奥深さを感じた。進学の夢は色あせ、板前の世界に飛び込んだ。


 下積み時代、任されたのは主に皿洗いやまかないの調理だった。同じ作業の繰り返しにしか思えず、親方につい不満を漏らした。返ってきた言葉に背筋が伸びた。「皿洗いは仕事を要領よくこなす訓練になる。まかないの調理は食材を無駄なく使い、感謝の気持ちを示す」。今も思い出しては、初心に立ち返る。


 10年間の修業の後、28歳で自分のすし店を構えた。人懐こい人柄が客の心をつかみ、3店舗を持つまでになった。軌道に乗ったかに見えた板前人生を一変させたのは、東日本大震災だった。津波で全店舗が営業不能に。それでも「また必ずすしを握る」との一念で半年間耐えた。


 強い決意の裏で、不安は拭えなかった。「お客さんは来てくれるだろうか」。再開当日、扉を開けると望外の情景が待っていた。店先は常連客から贈られた花で埋まっていた。「こんなに多くのお客さんに支えられていたとは」。災禍の中で触れた人情に心が震えた。


 震災から5年半、自分を形づくってくれた人々を思い起こしながら、日々カウンターに立つ。鮮魚店の店主、修業先の親方、たくさんの客…。「次は自分が支える番」。出会いへの感謝をすしにこめ、今日も握り続ける。


 


 【にぎりずしを一つ一つ丁寧に並べる高橋さん】


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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