絵本の時代 これからも続く 宮城学院女子大3年 加藤奈津海

チリンチリン。ドアを開けると、風鈴のようなドアベルが客を迎え入れる。店内は木の優しい香り。右手には木のおもちゃが並べてあり、左手には1万冊以上の絵本が天井まで連なる。子どもが自由に遊び、座り読みができる空間もある。ここでは絵本を読むのも、おもちゃで遊ぶのも自由だ。夢のような世界が広がる。


 


仙台市青葉区北山にある「絵本と木のおもちゃ 横田や」。明治初期に建てられた築140年以上の建物は、味噌しょうゆ、文房具の店を経て1978年におもちゃと絵本の専門店になった。店主の横田重俊さん(67)が妻の敬子さん(60)と二人三脚で営んでいる。重俊さんのトレードマークは帽子。どれも古風なデザインで、その数は30種類以上にも上る。子どもとの距離を少しでも縮めようと身に着け始めてかれこれ30年。子どもたちから「帽子のおじさん」と親しまれている。


 


東日本大震災では、幅広い人脈で、全国の絵本仲間に絵本を送ってもらった。「子どもの日常が早くもどるように」と、保育所や幼稚園に絵本を送り届けた。「子どもたちの戻ってくる場所で、震災前と同じように絵本を楽しんでもらいたくて」。当時を振り返る重俊さんの顔は真剣そのものだ。


 


敬子さんは「絵本を楽しみながら人としての基盤を建てることで、幸せな生涯を送ってほしい」と願う。子どもたちはもちろん、読み聞かせを担う保育士らの育成・支援にも力を入れる。特に沿岸部の津波被災地では保育士の心のケアも重要だ。


 


「子どもたちに五感を使って成長してもらいたい」と語る横田さん夫妻は、震災以前から毎週金曜日、店で「おはなし金曜日」と銘打った絵本の読み聞かせ会を開いている。親子一緒に物語を体験することで、共通の思い出を育もうという取り組みだ。


 


「時間に追われ、余裕のない時代。一時でも楽しんでもらえる場になればいい」。横田さん夫妻は、店の役割をかみしめる。時が移り変わっても変わってはならないものを、「横田や」は伝え広める。


 



 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


【笑顔で絵本を持つ横田重俊さんと敬子さん。絵本の魅力を語りだしたらとまらない。】


--------

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。