被災した町に「にぎわい」を 東北福祉大3年 菅野歩美

 宮城県七ヶ浜町。県中部沿岸に位置する菖蒲田海水浴場が今年、6年ぶりに活気を取り戻した。かつて国内有数の外国人避暑地としてにぎわった浜の10日間限定の海開き。県内外から多くの海水浴客が訪れた。


 真新しい防潮堤沿いに、一軒のログハウスが佇む。「アート・カフェ・バーSEA SAW(シーソー)」。木のぬくもりと陽気な音楽が客を出迎える。店のコンセプトは「仙台圏から一番近いビーチリゾート」。海の魅力を生かした癒しの空間を提供する。


「カフェは利用する人にとってご褒美の空間でなければならない」。それが店のオーナーである久保田靖朗さん(33)の思いだ。空間、装飾、料理、接客、BGM…。どれを取っても、「特別なものを」と選りすぐっている。一押しメニューは1日10食限定の「渡りガ二のパスタ」だ。七ヶ浜沖で獲れた蟹を使用しており、甲羅が乗った独創的な外観に引きつけられる。口に入れた瞬間に広がる磯の香りとトマトクリームのさっぱりとした味わいは、老若男女問わず楽しめるものだ。   


 久保田さんは千葉県出身。東日本大震災後の2012年、ボランティアとして町にやって来た。一面の海を臨む美しい景観と豊かな自然に触れ「町の復興に貢献したい」との思いが高まった。程なくして、移住を決意した。


 菖蒲田浜から町の魅力を発信することで、人が足を運んでくれるようになれば―。にぎわいのある町の姿を思い描く。意気込みは住民も同じだった。「誰もが気軽に足を運べる場所が欲しい」。切実な意見を受け、久保田さんが「カフェ」を提案した。協働の末、2016年5月、形となった。「被災地」から「観光地」へ。よそ者と地元民、二人三脚で地域の未来のために汗する。


 津波で被災した夫婦がカフェの窓から防潮堤を眺めてくつろぐ。微笑ましい光景に久保田さんは思わず頬を緩めた。「地域の人が町の可能性を信じることが復興につながる」。自分を鼓舞するかのように口にした第二のふるさとへのエールを、海風がなでた。



真剣な表情でコーヒーをいれる久保田さん。視線の先には町の未来が。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。