E班原稿/横田や 絵本で「生きる力」伝える

司法修習生 照井国興

宮城学院女子大3年 加藤奈津海

仙台白百合女子大3年 真壁優

岩手大3年 村木亮介


 「絵本は人生の道しるべを教えてくれる。その世界に誘うのが私たちの役目」。仙台市青葉区北山で「絵本と木のおもちゃ 横田や」を営む横田重俊さん(68)のポリシーだ。創業は1978年。妻の敬子さん(60)と二人三脚、客に絵本の楽しさと「生きる力」を伝えてきた。


 明治初期に建てられた店のドアを開けると、木の香りがする。天井まで続く壁一面の本棚には、1万冊以上の絵本がびっしり並ぶ。不変の人気の「ぐりとぐら」、幼児にも明快な「はらぺこあおむし」、貴重な絶版本…。多くの書店が立ち読みを嫌う中にあって、ゆっくりお気に入りと巡り合えるように異色の「座り読み大歓迎」のスタンスを取る。


 2011年の東日本大震災では店に大きな被害はなかったが、ライフラインが途絶え、生活は混乱した。そんな中、全国の絵本仲間が寄せ7万冊もの絵本を津波被災地に届けた。


 訪ねたのは幼稚園や保育所。「家もふるさとも奪われ、安らぎを失った子どもたちには絵本が必要でした。絵本が描く別世界にいっときでも浸って楽しい時間を過ごせば、生きる希望が少しは膨らみますから」。被災地を駆け回って5年半。感謝の手紙は今も絶えない。


 毎週金曜の昼前は、近所の親子らを対象に絵本の読み聞かせを震災前から続けている。「どんな生き方にわが子を出会わせたいのか。親に考えてほしいんです」。絵本が親子をつなぎ、一緒に思い出をはぐくむ懸け橋にもなってほしいと働き掛ける。


 空に真夏の太陽が光るこの夏のある日、子ども時代に「横田や」に通ったという女の子が母親となって、わが子の手を引きやって来た。「娘にも忘れられない絵本に出会ってほしくて」と本棚に手を伸ばしては、肩を寄せ合いのぞき込んだ。横田やに集う人の輪で「生きる力」を伝える営みは次代へと受け継がれている。


 いつものように子どもたちが目を輝かせ、横田さん夫妻を囲んだ。「むかしむかしあるところに…」。二人はまたゆっくりと、人生のページを開いてみせた。



【絵本を手にする横田重俊さん、敬子さん夫妻。たくさんの絵本とともに今日も笑顔で出迎える】


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。