町の誇り胸に復興へ歩む 白鷗大学 3年 吉田福太郎

 真夏の太陽の下、陽気さ漂う浜風が吹く。閑散とした浜沿いの道で目を引く一軒のログハウス。宮城県七ヶ浜町菖蒲田浜に、2016年5月にオープンした「アート・カフェ・バーSEA SAW(シーソー)」だ。店内には木の香りがあふれ、レゲエ音楽が心地良く流れる。二階からは防潮堤の先に海を臨むことができる。店のコンセプトは「仙台の週末リゾート」。海水浴場として東北最古の歴史を誇る浜に、かつてのにぎわいを取り戻す目的で作られた。お客さんにとって普段の生活の「ご褒美」となる空間を目指している。


 オーナーの久保田靖朗さん(33)は千葉県出身。12年3月に東日本大震災の復興ボランティアとして初めて町を訪れた。津波によって何もかもなくなった被災地を目の当たりにし、「復興に携わりたい」と強い思いを抱いた。町内どこからでも望める海にひかれ、5ヵ月後には移住を決心した。店を拠点にして、人々に安らぎと笑顔をもたらすための奮闘が始まった。「浜沿いの道にどんどん店が並んでほしい。そのためにもシーソーが成功を収める」と言葉に力が入る。


 メニューや設備には町の人の考えが反映されている。看板メニューは一日10食限定の「渡りガニのパスタ」。七ヶ浜沖で獲れたカニを丸ごと一匹使用する。テラス席はペット連れのお客さんに、外のシャワーやトイレは海水浴客のために用意した。


 大切にしているのは浜を誇りにしている町の人たちの主体性だ。再建していくのは地元の住民であり、自身はあくまでアイディアを提供する立場に徹している。「久保田のおかげではなく、浜や店のおかげで町が活気づいたと言われたい」と真剣な表情をみせる。


 今年7月末から10日間限定で、菖蒲田海水浴場は6年ぶりに海開きした。浜は人々の活気に満ち、店も大繁盛したが久保田さんに浮かれた様子はない。「現状は失敗ばかり。まだまだこれから」と気を引き締める。復興を見届けるまで七ヶ浜町の可能性を信じ、今日も共に生きていく。


 



(真剣な表情でコーヒーを淹れる久保田さん)


--------

河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。