食の商人、中山を駆ける 国際基督教大2年 奥瀬真琴

 夕方になると、晩ご飯を求めに来る客で店がにぎわう。牛肉コロッケを母親にせがむ少女、隣にはトンカツをかごに入れるスーツ姿の男性、はらこ飯の前で立ち止まる老夫婦…。店員との世間話も弾む。


 


 仙台市青葉区中山にある「オカザキスーパー」は、1971年創業、従業員43人の食品スーパーだ。店は坂道の途中にあり駐車場も狭いが、昔なじみの常連客は多い。新鮮な魚介類や野菜に加え、脂質控えめの油を使った揚げ物も人気を集める。


 


 商品の仕入れのため、週に一度は社長の岡崎敏郎さん(49)も市場に同行する。高齢者が多い中山地区では、価格より質を重視する客が多い。「値段じゃ大型店には勝てないからね」。てきぱきと品出しをしながら岡崎さんは話す。


 


 オカザキでは、客が希望すれば購入した商品を無料で自宅まで届ける。車を持たない住民や高齢者に、急勾配の道のりは負担だ。レジで宅配を頼んだ80代の女性は、「荷物の心配をせずに買い物できる」と頬を緩める。別の電話注文サービスでは、子供の体調不良などで外出できない母親からの注文も受け、幅広いニーズに応じている。


 


 岡崎さんが社長になったのは東日本大震災の年。本震の30分後には飲料水やカップ麺などを店の外に出して営業を再開し、牛乳や卵が品薄になれば県外から仕入れた。営業を続ける様子は次第に口コミで広まり、中山地区の情報交換の場にもなった。


 


 近くには大型スーパーが立ち並ぶ。地域住民の高齢化や震災による電気料金の値上げで、ここ2、3年の経営は厳しさを増している。それでも岡崎さんは、中山に根差したスーパーを目指す。宅配サービスでは防犯に気を配り、高齢者への声掛けをする。店が開く前に来た客も、店内の状態が整っていれば特別に店に入れる。


 


 「高齢のお客さんは年金を切り崩して来てくれている。期待に応えないと」。店を存続させることが中山への貢献につながる―。生まれ育った中山への思いを胸に、岡崎さんは今日も売り場に立つ。


 


【総菜売り場で接客をする笑顔の岡崎社長】


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。