タンヨ玩具店(塩釜市) 「玩具店」共に守る 上智大2年 新井絵梨花

 「準備はいいですか?」店主の声が高々と響く。2月下旬、始まろうとしていたのは毎週末開催されるトレーディングカードのゲーム大会だ。机を囲んでいるのは高校生から40代までの男性、約30人。大会開始から1時間もしないうちに、参加者のほとんどが腕まくりをしていた。

 大会を主催する「タンヨ玩具店」の店主は丹野秀彦さん(45)。祖父が1947年に創業して以来、家族で店を守ってきた。

 専用の複数枚のカードを使って相手と対戦する「トレーディングカードゲーム(TCG)」。取り扱いを始めたのは90年代半ばだった。秀彦さんの母、敬子さん(70)は「子どもたちが店前で生き生きと対戦する姿が大会を始めるきっかけとなった」と当時を懐かしむ。TCGは次第に店の主力商品となった。

 玩具店がTCGの大会を開催するケースは珍しい。タンヨでは店独自のルールも用意し、自由でアットホームな雰囲気が市外からも参加者を集める。

 TCGの拠点として定評を得る中、2011年、東日本大震災が発生した。店は大規模半壊。店内にあった大半の商品は津波で泥水だらけになり、売り物にならなくなった。途方にくれながら復旧作業を始めると、常連客たちが真っ先に手伝いに来てくれた。「うちはお客さんに恵まれている」。秀彦さんは思っていた以上に客たちが店を愛してくれていたことを知った。「店を続けなくては」。家族で奮闘し、震災から約1ヶ月に旧店舗の隣で営業を再開した。

 「今後も長年歴史を歩んできた『玩具店』の名を保ちたい。共に店を守ってくれたお客さんのために」と秀彦さん。TCG好きが集まるものの、「通信販売や全国チェーンに対抗する厳しさがある」と個人経営の玩具店を取り巻く課題を挙げる。注目しているのは、近年塩釜で増加している外国人観光客である。プラモデルを買い求める台湾の客に言葉が通じず悔しい思いをした経験から、毎日中国語を勉強中だ。

 客を愛し、客に愛される店。今後も歴史を紡いでいく。

笑顔で客との交流を楽しむ丹野秀彦さん

河北新報社 記者と駆けるインターン

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