夕刊掲載② 花を贈る 心の復興

東北学院大2年 横山明佳音

同3年 半沢航太

同3年 安田麻夕子









 「花なんて売ってるんじゃねえよ」



 東日本大震災から3日ほどたったころ、混乱が続く仙台朝市で一軒の花屋に心ない罵声(ばせい)が浴びせられた。



 「もうけのためだけに花を出してるって思われたことが悲しかったよ」。ワタベ生花店の3代目、渡部勝也さん(39)は振り返る。





【写説】愛情を込めて丁寧に花を生ける渡部さん







 創業は1953年。祖父、父と商売を受け継いできた。仙台朝市は震災翌日に電気が復旧。翌々日には自店を含め約7割の店が営業を再開した。市内の多くの店が再開できない中で、朝市は多くの客でごった返した。



 長い列をつくってまで市民が買い求めようとしていたのは食料だった。花で腹は満たせない。店頭に花を並べていることに対して、殺気立った人々から思わぬ声が飛んだ。多くの人が被災し、冷静になりにくい状況だったに違いない。そう頭で分かってはいても、渡部さんのショックは大きかった。



 震災から1週間後、「花屋さんがあってよかった」との言葉を掛けられた。自分の商いを否定された後に触れた一言。渡部さんは「救われた思いがしました」と表情を緩めた。



 渡部さんには花への、ある思いがある。



 「お客さんには花を愛(め)でる気持ちのゆとりを持ってもらいたい。人に花を贈るなら、感謝の気持ちを伝える機会にしてほしい」。震災前からそんな思いを胸に花を商ってきた。



 「花を愛でる」。それは、花を眺めて癒やされること。花を贈ることは、自分の気持ちを伝えられるとともに、癒やしも届けられる。



 震災から約1年半、今も心を痛めている人はたくさんいる。もし身近にそのような人がいるならば、花を贈ってはどうだろう。大切な人から贈られた花は、もらった人の心に咲く「希望」となるだろう。


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河北新報社 記者と駆けるインターン

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