夕刊掲載① 心を整える、被災児童の映画づくり

東北大2年     国井弥卯

法政大3年     野中悠平

東北福祉大3年   佐藤麻里絵

宮城大大学院1年  玉野井美都子



 子どもたちがカメラに向かって走りだした。「よーし、いいぞー!」。レンズ越しに見つめていた心理カウンセラーの宗貞(むねさだ)研さん(34)は声を弾ませた。

 津波で大きな被害を受けた名取市の閖上小で、自主制作短編映画の撮影が進む。主な出演者は、閖上地区で暮らしていた小学生たち。あの日、閖上小の屋上から、ふるさとが津波にのみ込まれるのを見た。

 心に残された深い傷。宗貞さんは昨年6月、地元の心療内科医・桑山紀彦さん(49)らと共に、子どもの心のケアを目的とした「スカイルーム」の活動を始めた。映画作りはその一環だ。

 撮影に先立ち、子どもたちは絵を描き、ふるさとの街を粘土で表現した。つらい体験を外に出すことで、抱えた心の荷をゆっくり下ろしてきた。

 映画のタイトルは「ふしぎな石」。子どもたちが閖上地区を巡って五つの石のかけらを探し出し一つにすると、石から津波で亡くなった人たちの声がする、というストーリーだ。

 物語の鍵を握るその「声」は、台本には記されていない。子どもたちが震災への思いを話し合って共有し、自ら決める。その過程が、さらなる心の整理につながる。

 一般に、子どもにはつらい体験を思い出させるのはよくないとされているが、スカイルームのアプローチは異なる。思いを心に閉じ込めるのではなく、時間をかけて向き合い、解き放てるように子どもたちを促してきた。

 「学校に近づくことさえ怖がっていた子どもたちも、今では笑顔で校庭を駆け回れるようになりました」と、宗貞さんは手応えを感じている。

 映画は年明け、名取市文化会館で上映される。「『よかったよ』の一言でいいんです。見た感想を子どもたちに伝えてもらえれば、彼らの確かな支えになりますから」

 震災の今を知ろうとすること—。1本の映画を見ることでもいい。それはきっと、誰かの力になる。





【写真】映画「ふしぎな石」の撮影現場。子どもたちは演じることで震災のつらい体験と向き合い、心を軽くしてきた
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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。