地域を育てる印刷会社 ハリュウコミュニケーションズ ワカツク1班



河合豪雄(ワカツク)

菊田友美(ワカツク)

簗瀬裕子(ワカツク)




 「うちには地域をつなぐ役割があるんだよ」。仙台市若林区六丁の目西町にある印刷会社「ハリウコミュニケーションズ」社長の針生英一さん(54)のポリシーだ。印刷会社は紙に何かを刷るだけが仕事ではない。地域の大人を巻き込み、未来を担う子どもたちを育てるプロジェクトの運営に力を入れる。



Windows95が世に出たとき、パソコンとプリンタの普及に危機感を感じた。家庭で印刷する人が増えれば印刷業は成り立たない。IT活用の道を考え、知人に誘われてシニア向けパソコン教室の運営に加わった。社員と一緒に無償で手伝う中、シニア向け教材作りを頼まれた。これまでの経験と印刷会社の強みを生かし、文字が大きく、イラストを多用した教材を開発すると、評判は上々。受講者に買ってもらえるようになった。「地域に役立ちたい」と踏み出した一歩が本業に結び付いた。



事態はさらに変化を生む。パソコンを学んだシニアが小学校に出向き、小学生にパソコン操作を教えた。「おじいちゃんすごい! かっこいい!」。子どもたちは目を輝かせ、シニアは生き生きとした。

「学校だけでは担えない教育があること、そして地域の大人が子どもの教育を支える大切さに気付かされました」



気付きは、印刷会社に更なる進化を促す。2005年、経済産業省からの受託で、子どものキャリア教育に関わるようになった。小中学校にゲストとして招いた地域の会社員やフリーターに講演してもらい、子どもたちに「働くとは何か」「今の勉強が将来どう役に立つのか」を考えさせる内容だ。職業観の醸成だけでなく、現在は子どもたちの「理数離れ」も食い止めようと、企業から専門家を呼んで「理科特別授業」を実施。2012年度は県内94校の小学校に専門家を送った。



「働く大人の話を生で聞いて、働くことや社会に興味を持ってほしい。社会に目を見開き、職業観をしっかり持った子どもが増えていく先に、地域の担い手、リーダーは育つ」。切り開いてきた地域人材育成の道を突き進み、公的補助が切れた東日本大震災の年にも手弁当で授業を続けた。



震災をきっかけに、ぼんやりしていた課題が浮き彫りになった。「行政だけに頼らず、自分たちの問題は、地域も企業も学校も、力を合わせて取り組む必要があると再認識させられました。欧米で主流の『生まれた時から社会人』との環境下で、自立した大人に育てたい。地域の課題を解決できる次世代の人材を育てたい。スペシャリストをつないでネットワークをつくりたい」。そうした取り組みがつながった先に、豊かな地域社会があると思い描く。





針生英一さん(右)と、入社1年目で連携推進室に配属された早坂美優紀さん



本年度、社内に「連携推進室」を新設した。外部と協働し「地域活性」「まちづくり」「教育」などのプロジェクト運営を担う。次代を考え、新入社員も配属した。



「ハリウコミュニケーションズが地域をつなぐハブになりたい」。この印刷会社が刷っているのは、地域の未来図だ。


 


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河北新報社 記者と駆けるインターン

このブログは、2012年夏から2019年春まで通算19回行われた、大学生向けの記者体験プログラム「記者と駆けるインターン」の活動報告です。 2019年夏からは内容や期間が異なりますので、ご了承ください。 詳細は最新の記事をご覧ください。